2023年1月30日月曜日

[裁判例]引用発明の本来的な要請に基づき組み合わせの容易性が認められた例(令和4年(行ケ)10039号)

 株式会社ぐるなびの拒絶査定不服審判の審決取消訴訟である。出願にかかる発明は、次のとおりである。ポイントとなる構成に下線を引いた。
【請求項1】
 一又は複数のプロセッサーが、 予約対象となる第1施設と一又は複数の予約内容とを含む初期予約条件の入力をユーザー端末から受け付け、 
 前記第1施設に対応する施設端末に前記予約内容を通知し、 
 前記施設端末からの返信を受け付けた場合に予約を成立させ又は返信内容を前記ユーザー端末に通知し、 
 前記予約内容が前記施設端末に通知された後、前記施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合に、前記施設端末からの返信受付を終了して、前記初期予約条件に基づいて前記第1施設を除く一又は複数の第2施設を抽出し、 
 前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記ユーザー端末に通知する、 予約支援方法。


 ユーザが予約対象としている第1施設の施設端末から待期期間内に返信がない場合に、初期予約条件に基づいて複数の第2施設を抽出し提案する(図7)というシステムである。これにより、施設側は、早期に返信をしないとスキップされてしまうことから、対象特許が目的としている「施設側の早期の返信を促す」ことを実現する。

 主引例は、同じく施設の予約システムであるが、希望する施設の予約がNGであった場合に自動的に別候補の検索を行い、別候補を提供する発明であった。
 本願発明と主引例との違いは、本願発明では第2の候補の抽出を第1施設からの返信がない場合に行うのに対し、主引例では予約登録結果がNGだった場合に行う点である。
 副引例は、ホテルの仮予約に関する発明で、仮予約センタ端末が複数のホテル端末に対して順次、空き問い合わせを行い、宿泊が可なら仮予約を行うというものである。この発明では、空き問い合わせに対する宿泊可否の通知を一定時間経過しても行わなかった場合、ホテル端末に対してキャンセルの通知を行い、次のホテルに空き問い合わせを行う。これは相違点に係る構成である。
 
 本裁判の論点は、主引例と副引例とを組み合わせることが容易かどうかである。裁判所は次のように判断した。
(裁判所の判断)
「イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、予定される利用日又は利用日時よりも前に予約を完了するという本来的な要請がある。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなかった場合に、別の施設の予約をすることが可能であるような施設予約システムにおける予約方法であるところ、・・・宿泊施設の予約担当者による判断の時期によっては、相当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の施設の予約枠が埋まってしまうこともある。 
 そうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるといえる。 
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、・・・甲2には、施設端末が、一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱い(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設からの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。 
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施設予約システムにおける施設予約方法という共通の技術分野に属するものであって、第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予約不可の返信を受けた場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信されない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用する動機付けがあるといえる。 」

(コメント)
 動機付けありとした判断のポイントは、施設予約には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請があるところ、引用文献1では本来的な要請を満たすことができないおそれがあり、引用文献2ではそのおそれを回避する効果があるというものである。
 このロジックによれば、副引例が奏する効果、または解決する課題等が、本来的な要請に基づくもの(あるいは普遍的な課題を解決するもの等)と言ってしまえば、常に副引例を組み合わせる動機付けがあることになってしまう。判断が恣意的にならないようにするために、判断者は、本来的な要請があることを丁寧に示す必要がある。また、無効を主張する立場としては、当然そうした要請を示す必要があるであろう。







 

2023年1月20日金曜日

[裁判例]携帯情報通信装置事件(令和3年(行ケ)10139号)

 携帯端末に表示しきれない高解像度の画像を受信したときに外部の表示装置に表示させる携帯情報通信装置の発明についての無効審判の審決取消訴訟である。



 特許請求の範囲の記載はとても長いが、ポイントとなるのは次の構成要件である。下線及び①②は筆者が追加。

G’ 前記無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、前記中央演算回路に送信し、前記中央演算回路が該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像データを処理し、前記グラフィックコントローラが、該中央演算回路の処理結果に基づき、前記単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段又は前記インターフェース手段に送信して、前記ディスプレイ手段又は前記外部ディスプレイ手段に画像を表示する機能(以下、「高解像度画像受信・処理・表示機能」と略記する)を有する、 携帯情報通信装置において、 
H’ 前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、①前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と、②前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と、を実現し、

 G´で言っているのは、無線通信手段によって高解像度画像を受信し、処理し、表示する一連の機能があるということであり、H’で言っているのは、その一連の処理において、①携帯端末の備え付けのディスプレイパネルと同じ解像度の画像を読み出して表示する機能、②ディスプレイより高解像度の画像を読み出して外部ディスプレイ手段に表示させるためにインターフェース手段に送信する機能、の2つがあるということである。

 さて、主引例となった甲1発明は以下のとおりである。

(甲1発明)
「甲1発明は、内部表示装置における内部表示用の表示データを格納するための領域と、内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置における外部表示用の表示データを格納するための領域を表示メモリに確保し、内部表示用の表示データを選択的に外部表示用の領域に格納することで、解像度の違いによる外部表示装置における表示領域を有効に利用することが可能となるという効果を奏する(【0104】)」



(周知技術)
「携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術は、周知技術であるといえる。」

(裁判所の判断)
「ア 甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについては、そもそも一切記載はない。もっとも、甲1文献の【0103】の「本装置を実現するコンピュータは、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、または通信媒体を介してプログラムを受信し、このプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行する。」との記載に照らせば、無線を含む通信媒体を「プログラム」を「受信」するために利用することは示唆されているといえる。また、甲1文献の【0083】では、表示内容を上位のアプリケーションが処理することも記載されているから、甲1発明において、「無線通信手段」を設け、「無線通信手段」で受信した「画像データ」を処理して画像を表示するように構成することまでは、当業者が容易に想到し得たことということも可能と考えられる。 
 しかし、甲1文献には、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータに関する解像度の記載はなく、無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信して、この「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」についてディスプレイ制御手段やインターフェース手段に送信するデジタル表示信号を生成する具体的な構成については、何らの開示や示唆もない。そうすると、結局、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到することができたとはいえないというべきである。」

「しかし、前示のとおり、甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについて一切記載はないものの、この点については想到可能であるとしても、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータの解像度に関する記載は一切なく、甲1発明の「画像データ」が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」であることについて、何らの開示や示唆もない。 
 また、前記認定の周知技術も、携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術を開示するのにとどまり、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信するとの点や、グラフィックコントローラは、携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフ
ェース手段に送信する機能を実現するとの点まで具体的に示唆するものではないから、前記 認定の周知技術を加味しても、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到できたとはいえないし、この点に係る構成が単なる設計事項であるということもできない。」

(コメント)
 甲1発明は、構成要件H’の①②を備えている。足りないのは、①②の処理が「前記高解像度画像受信・処理・表示機能(構成要件G)を実現する場合」の機能である点である。もう少し細かくいうと、甲1発明も画像の処理と表示はしているから、足りないのは、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信」する点である。
 携帯電話機の中に、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」が入ってくる経路として、無線通信手段を介して入ってくることも当然あり得る話だと思うが、そのことを開示した文献が示されなかったため、進歩性が認められたと考えられる。

2023年1月9日月曜日

早期審査についてPart2

 以前、早期審査と特許査定率の関係について調べたが、今回は早期審査を経て登録になった特許と、通常(非早期)の審査で登録になった特許について、異議申立事件での取消率等に影響があるのかどうかを調べた。
 対象は、2014年1月以降に特許公報が発行された案件で、異議申立が終了している案件である。前も書いたが、データベースに、早期審査をした、という分類はなかったので、早期審査の事情説明書、早期審査に関する通知書、早期審査に関する報告書等のいずれかが出ていることをキーとして早期審査の特許に分類した。

 まず、早期審査で登録になった特許が全件の26.1%と、異議申立ての全件数に占める割合は非常に高かった。(前回調査によれば、登録件数に占める早期審査の割合は、6%程度にすぎない。)
 しかし、取消理由が通知される割合、訂正請求を出した割合、権利が取り消される割合については、早期審査で登録になった特許と非早期の審査で登録になった特許でほとんど違いがない。
 
 肌感覚としては、早期審査した案件の特許査定率の高さとも相俟って「よくこれで特許になったなあ」と思うものが多いような気がしたが、必ずしもそうではないのかもしれない。
 これまで、早期審査→特許査定率が高いと思っていたが、原因と結果が逆なのかもしれない。つまり、特許査定率が高いものが早期審査されている。
 早期審査の特許の方が異議申立てされる割合が高いのは、それだけ、重要性が高いと考えれば説明がつく。

2022年12月29日木曜日

[裁判例]システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 株式会社REVO等が保有する特許に対して、SELF株式会社が起こした無効審判の審決取消訴訟である。並行して、株式会社REVO等がSELF株式会社を特許侵害で訴えており(令和4年(ネ)10008号)、その件も同じ裁判体によって判断され、同日に判決が言い渡されている。

 対象の特許は、健康管理を想定した情報提供装置の発明であり、一度に多くの個人情報を入力させるのはユーザにとって負担が大きいので、最初に個人情報の入力を受け付けた後は、折に触れてユーザに質問して、負担のない態様で個人情報の入力をさせることをポイントとする発明である。
【請求項1】
1A ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段と, 
1B 前記第1受付手段によって受け付けていない個人情報に対応する属性の質問を行う質問手段と, 
1C 前記質問手段による質問に対する返答である個人情報を受け付ける第2受 付手段と, 
1D 前記第1及び第2受付手段によって受け付けられた個人情報と当該個人情報に対応する属性とが紐付けた状態で格納される格納媒体と, 
1E 前記第1又は第2受付手段によって受け付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段と,を備え, 
1F 前記提案手段は,前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段と, 
1G 前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する 
1H 情報提供装置。

 引用発明は、ユーザの意欲を喚起する学習・生活支援システムであり、対象特許と同様に、段階的な個人情報の入力を受け付ける構成を有するものである(請求人はそのように主張している)。
 審決では、3つの相違点を認定しており、裁判所はそのうちの相違点3について相違があり、かつ、容易想到でもないと判断した。その相違点というのは、次である。

・相違点3
 情報提供システムが、本件発明1は「情報提供装置」であるのに対し、甲1発明は、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3とを備える「学習・生活支援システム1」である点。 

[裁判所の判断]
 裁判所は、本件発明は装置であるのに対し、甲1発明はシステムであるとして、新規性を認めた上、進歩性について次のように判断した。

「イ 前記アの記載事項によれば、前記アの刊行物には、①スマートフォンを利用した店舗検索システムにおいて、その処理の一部をスマートフォンで行う場合と、Webサーバで行う場合があること(前記ア(ア))、②クラウドサービスでは、利用者は、最低限の環境、すなわち、携帯情報端末等のクライアント、その上で働くWebブラウザ等を用意すればサービスを利用できること(同(イ))、③場所に関する表現を含むコンテンツにおいて、表現された箇所を見つけ出すことを可能とする情報提供システムの発明において、そのシステムの構成要素が閲覧端末に搭載されるものが実施例の一つとして開示されていること(同(ウ))が認められる。 
 しかしながら、上記①ないし③から、一般的に、情報提供サービスを行う場合において、当該サービスを提供するために必要となる処理をサーバを含むシステム全体で行うことと、当該処理をユーザ端末のみで行うことが、提供するサービスの内容いかんにかかわらず適宜選択可能な事項であるとはいえない。そして、当業者が、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2と、複数の受講生・生徒が使用するユーザ端末3とを備え、受講生・生徒同士がコミュニケーションをとることのできる甲1発明の「学習・生活支援システム1」において、当該システムで必要となる処理の全てを単独のユーザ端末3で行うようにすることについては、その必要性、合理性が認められない。 
 よって、甲1発明の「学習・生活支援システム1」を単独の情報提供装置に変更することが設計的事項の範疇にあるということはできない。 
 ウ この点に関し、原告は、甲1の学習・生活支援サーバ2に実装された記憶部をユーザ端末3に配置変更することは、甲1の【0022】に記載されているから、甲1に接した当業者であれば、ユーザ端末3の制御部が、当該記憶部から個人情報を読み出し、ユーザ端末3の制御部によってユーザに対する提案が実現されるように設計変更することは容易である旨主張する。 
 しかし、甲1の【0022】には、学習・生活支援サーバ2が備える記憶部に記憶されるようにされている各種情報をユーザ端末3に記憶するようにしてもよいとの記載があるにすぎず、学習・生活支援サーバ2が備える他の機能をユーザ端末3に備えることについての記載や示唆はない。
 したがって、甲1に接した当業者が、甲1発明の「学習・生活支援システム1」の構成全体を単独の情報提供装置に変更することの動機付けは認められないから、相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。 
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 

(コメント)
 装置とシステムとで構成上の違いがあるから新規性あり、というところまでよいとして、システムで構成している甲1発明を装置に変更するのが容易でないという判断には驚いた。甲1発明が学習・生活支援システムであるという点を考慮して、単独の装置では、実現不可能ということを考慮したと思われる。確かに、甲1発明を出発点とすれば、システムを装置に変えるのは困難ということは言えるかもしれないが、たまたま選んできた引例がそういう前提だったというだけで、発明のポイントは開示されているのではないか。特許のための議論という感じは否めないが、こういう議論が通用する可能性があることは留意しておいた方がよいと思う。

 さて、本件に関してさらに驚いたのは、同日に出された侵害訴訟の判決では、本件発明は、甲1発明を理由に、新規性なしと判断されたことである。(いや、これは自分が何かを見落としているのかもしれない。) 下記の判決文における乙8が上で述べた甲1発明である。

[裁判所の判断](侵害訴訟)
「(ウ) 構成要件1Hについて 
a 乙8発明1の学習・生活支援サーバ2は、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」に相当するものである。 
 b これに対し、控訴人らは、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」は、「ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段と、」という構成要件1Aを含む各手段等を備えるものであり、本件明細書の【0029】の記載から、構成要件1Aの「第1受付手段」は、「タッチパネル114」と「制御部101」と「記憶部102」とが協働して実現することができるものと解釈すべきであるところ、乙8発明1の構成1hの「学習・生活支援サーバ」は、「タッチパネル114」のようなユーザインタフェースを有していないから、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」と、乙8発明1の構成1hの「学習・生活支援サーバ」は、ユーザインタフェースの有無という点で相違すると主張する。 
 しかるところ、本件発明1の構成要件Hの「情報提供装置」は、構成要件1Aの「第1受付手段」を備えるものであるが、前記(ア)bのとおり、本件特許の特許請求の範囲(請求項1)には、本件発明1の「ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段」を「タッチパネル」のようなユーザインタフェースを有するものに限定する記載はないから、控訴人らの上記主張は、その前提において採用することができない。 
 したがって、控訴人らの上記主張は、理由がない。 
ウ まとめ 
 以上によれば、乙8発明1は、本件発明1の構成要件1Aないし1Hの構成を全て有するから、本件発明1は、乙8発明1と同一の発明であるものと認められる。 
 したがって、本件発明1に係る本件特許には、新規性欠如の無効理由(特許法29条1項3号、123条1項2号)がある。 」

(コメント)
 こちらでは、進歩性欠如ではなく、新規性欠如である。装置とシステムは実質的に違いはないと。

2022年12月22日木曜日

[EP]UIは技術的事項かPart3(T1143/06)

 この審決は、大容量のデータベースを所定のソート条件で検索したときの検索結果を表示するデータ選択システムの発明(出願人はブリティッシュテレコム)に関する。
 顧客ファイルを例として、この発明のポイントを説明する。ユーザがソートのための文(ステートメント)を選択すると、データ選択システムは、ソート文と顧客ファイルとの関連性を決定する。そして、データ選択システムは、ディスプレイにソート文を表示すると共に、顧客ファイルを示すデータ要素を表示する。このとき、関連性に基づいて、少なくとも1つのデータ要素を最初の位置からソート文の方へ相対的に移動させるエフェクトを表示する。そして、データ要素を選択することで顧客ファイルを選択する、というものである。


 上の明細書の図6の例では、108,110,112がソート文である。108は宛先Aへコールしたトランザクションデータ、110は宛先Bへコールしたトランザクションデータ、112はISDNによるコールのトランザクション、というソート文である。
 114,116,・・・122がデータの要素であり、124は最初の位置である。データ要素は、ソート文との関連性に基づいて、最初の位置124からソート文108~112に向かって相対的に移動する。例えば、要素114は、宛先Aへのコールが25%、宛先Bへのコールが0%、ISDNによるコールが0%の顧客ファイルを示す。要素114はソート文108に向かって移動する。要素120は、宛先Aへのコールが40%、宛先Bへのコールが40%、ISDNによるコールが0%の顧客ファイルを示す。要素120は、ソート文108と110から等距離にある軌道上を移動し、122に至る。
 
(先行文献D1との相違)
 本件発明がD1と異なるのは、各データ要素の移動速度を決定し、各データ要素を相対的に移動させる点のみである。

(審判部の判断)
 さて、本発明に戻ると、データファイルを象徴する要素が画面上を移動することで、情報を伝達することを意図している。このことは、特許明細書自体から明らかである。「各要素は、それが表すデータファイルとソートステートメントの関連性に従って動くので、データのパターンは容易に認識できる」(3頁第2文)。この特徴を単独で考えると、EPC 第52条(2)(d)の意味での「情報の提示」であると判断されなければならない。したがって、請求項の文脈では、この特徴が技術的効果を追加的にもたらす場合にのみ、進歩性に寄与することができる。

 審判部の見解は、唯一の新機能が表示要素の移動に関するものであるため、本発明は情報の検索と取得に直接関係する問題を解決するものではないというものである。ビジュアライゼーションの直接的な効果は、それがユーザに与える印象である。この問題はあまりにも広範囲に及んでいる。より正確には、本発明は、データファイルに関する情報を、人が容易に評価できるような方法で提示する問題を解決するものであり、この人は、データベース内のデータファイルの検索および取得のためのシステムのユーザである。この表現は、この問題が純粋に技術的なものでないことをより明確に示している。実際、理論的には、同じ情報を自然文の記述や表で表示することも可能である。(これらの表示方法が実際に適切でないかは別問題である)。したがって、直接的な技術的効果はないように思われる。

(コメント)
 下線を引いたように、ビジュアライゼーションはユーザに与える印象であり、技術的なものではないと判断された。
 2つめの下線にあるとおり、同じ情報を別の態様で表すことができるかどうか?という観点は、ユーザに与える印象にかかるビジュアライゼーションなのか、技術的効果を伴うものかを判断する上で、一つの基準になるように思った。



 

2022年12月15日木曜日

[EP]UIは技術的事項かPart2(T1741/08)

  PC等のユーザーインターフェースに関する発明についての審判である。明細書の図面の一部を抜粋する。(カラーの部分は、筆者にて追記)


 この例は、旅行の予約をする画面であり、上の赤のところが手続きの流れを示している。不鮮明であるが、具体的には、

「一般データを入力(Enter General Data)→サービスの選択(Select Service)→レビューと予約(Review and Book)→確認(Confirmation)」

という手順で、このサイトの入力を進めることを示している。その下の青の部分は、「サービスの選択」の中のサブの手順であり、

「フライトの検索(Search for Flight)→フライトの選択(Select Flight)→レビュー(Review)」

という手順を示している。一番下の大きな枠は、フライトの検索条件を入力するためのインターフェースである。
 本発明はこのようなインターフェースにより、多くのステップやサブステップを必要とするデータ入力のプロセスにおいて到達した段階を特定することが容易になるというものである。

(出願人の主張)
 出願人は、コンピュータ資源の使用量の削減が、本件において要求される付加的な技術的効果であると主張した。その心は、ユーザーは、現在の段階で入力すべきデータの性質をより迅速に把握することができる。迅速に対応することで、時間のかかる入力トランザクションが少なくなれば、使用するコンピュータ資源が少なくなるという技術的効果があるというものである。

(審判部の判断)
 特定のGUIレイアウトは、経験の浅いユーザーが、どこに、どのようなデータを入力すべきかを探す時間を確かに短縮することができると、審判部は考える。その結果、より少ないコンピュータ資源が使用されるかもしれない。しかし、この資源使用の削減は、特定の情報提示方法によって与えられた視覚情報をユーザーの脳がどのように知覚し処理するかによって生じるものである。
 出願人は、事実上、次のような効果の連鎖があることを主張しているのである。すなわち、レイアウトの改善(判例によれば、これはまさに「情報の提示」である)により、ユーザーの「認知的負担が軽減」される;そのためユーザーの反応が速くなる;したがってコンピュータが必要とする資源が少なくなる。
 しかし、技術的な効果という点では、レイアウトがユーザーの心理に影響を与える;先行技術よりも精神的な移行が早く行われる;ユーザーの反応が早くなり、コンピュータのリソース使用量が減る、というのは壊れた連鎖である。これらのリンクのうち、技術的効果と呼べるのは3番目だけである。つまり、従来技術よりも、ユーザーがコンピュータをアイドル状態にしておく時間が短いため、リソースの消費が抑えられるのである。
 審判部は、このような壊れた連鎖を、全体として要求される技術的効果の証拠として受け入れることはできない。このような連鎖論が説得力を持つためには、それぞれのリンクが技術的なものでなければならないように思われる。したがって、出願人は、レイアウトがユーザーに心理的効果をもたらし、ユーザーがコンピュータに技術的効果をもたらすという、改善されたレイアウトによる付加的な技術的効果があることを立証していない。このことは、レイアウトがコンピュータに技術的効果をもたらすということと同じではない。

(コメント)
 審判部は、壊れた連鎖という言い方をしているが、言いたいことはレイアウトの工夫によりユーザがデータの入力手順を理解しやすくなるということと、リソースの消費が抑えられること(技術的な効果)とはリンクしていないということと思われる。確かに出願人の三段論法のような主張は強引という印象であり、これを認めると多くのUIは同じ論法で技術的効果が認められることになってしまうだろう。
 日本ではこうしたタイプの出願も結構あるので、どういう対策を取っていくべきか検討が必要である。他の事例もみていきたい。




2022年11月26日土曜日

[EP]UIは技術的事項か(T0077/14)

 タッチスクリーン画像スクロールの特許についての2015年の審決である。特許で規定している動きは、審決が下記のようにまとめている。表中にlong touchとshort touchがあるが、long touchは、t1より長くt2より短い時間のタッチ、short touchは、t1より短いタッチである。


c 画面にタッチして指を移動し、離す動き → スクロール開始
d,f スクロール開始後に画面タッチまたはスクロール停止 → スクロール停止
e スクロール開始後にタッチなし → 徐々に減速
g 画面にタッチし、動きがありから動きなしとなり指を離す → 待機
h 画面にタッチし、動きなく指を離す → アイテムの選択

 最も近い先行文献D7には、構成d~fが開示されている。

 原審では、「特徴的な機能は、相乗的な技術的効果をもたらすものではなく、本発明にとって不可欠な実際のデータスクロールの手順そのものに関するものではなく、むしろ、「ある方向と速度でデータスクロールするコマンドとスクロールを停止するコマンドを起動するという『意味を帰属』させる(マッピング)ためのジェスチャーの選択」という問題に関するものである。」とし、相違点に係る構成は、技術的ではないと判断された。

 審決は、次のように、客観的技術的課題を認定した。

「特に最も重要なことは、タッチスクリーン装置の3つの異なるスクロール関連機能、すなわちスクロールの開始(特徴cに関連)、スクロールの中断(特徴gによる「待機」状態に対応)、データアイテムの選択(特徴hに関連)を実装レベルで適切に認識し区別することを実際に可能にすることである。) これは、特に、異なる時間間隔(すなわち、独立請求項の特徴cおよびgに関するt1<Δt<t2または特徴h)に関するΔt<t2)の観点から、タッチ接触持続時間を含む物理パラメータを追加することによって達成される。・・・審判部は、それによって、明確な順序(シーケンスセンシティブ)タッチイベントの数および実現可能なジェスチャーベースの機能の数を大幅に拡張することができると考える。」

「以上のことから、本独立請求項1及び10が解決しようとする客観的技術課題は、"D7に示されるようなタッチパネル装置におけるスクロールベースのデータリスト検索の文脈において、認識可能なジェスチャーベースの機能の数をいかに拡張するか "として定式化することが可能である。」
 
 その上で、時間に関する閾値を検出する実装することは自明であるとしつつも、それだけでは、D7から対象発明に想到しないと判断した。

「むしろ、特徴cによるジェスチャーに基づくスクロールの開始を定義し適用するための所定の時間間隔の追加の検出、および特徴gとhによるスクロール操作に直接または間接的に関連する追加のジェスチャーと機能のマッピングを実際に組み込むことは、異なるジェスチャーとその結果の機能の間の単なる差別化を概念的なレベルで可能にすることを超えていると判断する。
 特に、D7とD5には、検出可能なタッチイベントの組み合わせの数、つまり実現可能なジェスチャーベースの出力機能の幅を著しく拡大するような明確な奨励は一切ない。また、すでに関与している物理的なタッチ検出パラメータに加え、明確なタッチ持続時間間隔を活用するための指針もない。このことは、D10で定義された標準化されたユーザビリティ原則に照らしても同様である。検出すべき物理パラメータの数を拡張することによって生じる実装の複雑さ及び困難さ(例えば、ジェスチャー認識速度、衝突解決、較正、ノイズ耐性に関する)の増加を考慮すると、特にD7の出版時(すなわち1998年)には、当業者はむしろ請求された解決策から遠ざかるだろうと審判部は考える。したがって、D7から出発し、請求項1に対する補正を考慮すると、その特徴的な機能は、タッチスクリーンインターフェース設計の分野の当業者が、状況に応じて、本願発明の後知恵の恩恵を受けずに、本願優先日において必然的に選択するであろう直接的な実施策とは考えられない。」

[コメント]
 本件発明は、タッチ画面のスクロールに関して、この場合はスクロール開始、この場合はスクロール停止ということを規定しているにすぎないので、技術的ではないという気がするが、最も近い先行文献D7との差分として、タッチしている時間間隔というファクターが入っているので、その部分を技術的事項として拾い上げた事例と整理することができる。ここを技術的事項と捉えることができるように技術的課題を設定しているような印象はある。
 なお、審決の最後のところ、阻害事由を述べているが、この基準が本願優先日ではなく先行文献D7の出版時であるところは、これで合っているのだろうか?

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

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