株式会社ぐるなびの拒絶査定不服審判の審決取消訴訟である。出願にかかる発明は、次のとおりである。ポイントとなる構成に下線を引いた。
【請求項1】
一又は複数のプロセッサーが、 予約対象となる第1施設と一又は複数の予約内容とを含む初期予約条件の入力をユーザー端末から受け付け、
前記第1施設に対応する施設端末に前記予約内容を通知し、
前記施設端末からの返信を受け付けた場合に予約を成立させ又は返信内容を前記ユーザー端末に通知し、
前記予約内容が前記施設端末に通知された後、前記施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合に、前記施設端末からの返信受付を終了して、前記初期予約条件に基づいて前記第1施設を除く一又は複数の第2施設を抽出し、
前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記ユーザー端末に通知する、 予約支援方法。
ユーザが予約対象としている第1施設の施設端末から待期期間内に返信がない場合に、初期予約条件に基づいて複数の第2施設を抽出し提案する(図7)というシステムである。これにより、施設側は、早期に返信をしないとスキップされてしまうことから、対象特許が目的としている「施設側の早期の返信を促す」ことを実現する。
主引例は、同じく施設の予約システムであるが、希望する施設の予約がNGであった場合に自動的に別候補の検索を行い、別候補を提供する発明であった。
本願発明と主引例との違いは、本願発明では第2の候補の抽出を第1施設からの返信がない場合に行うのに対し、主引例では予約登録結果がNGだった場合に行う点である。
副引例は、ホテルの仮予約に関する発明で、仮予約センタ端末が複数のホテル端末に対して順次、空き問い合わせを行い、宿泊が可なら仮予約を行うというものである。この発明では、空き問い合わせに対する宿泊可否の通知を一定時間経過しても行わなかった場合、ホテル端末に対してキャンセルの通知を行い、次のホテルに空き問い合わせを行う。これは相違点に係る構成である。
本裁判の論点は、主引例と副引例とを組み合わせることが容易かどうかである。裁判所は次のように判断した。
(裁判所の判断)
「イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、予定される利用日又は利用日時よりも前に予約を完了するという本来的な要請がある。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなかった場合に、別の施設の予約をすることが可能であるような施設予約システムにおける予約方法であるところ、・・・宿泊施設の予約担当者による判断の時期によっては、相当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の施設の予約枠が埋まってしまうこともある。
そうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるといえる。
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、・・・甲2には、施設端末が、一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱い(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設からの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施設予約システムにおける施設予約方法という共通の技術分野に属するものであって、第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予約不可の返信を受けた場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信されない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用する動機付けがあるといえる。 」
(コメント)
動機付けありとした判断のポイントは、施設予約には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請があるところ、引用文献1では本来的な要請を満たすことができないおそれがあり、引用文献2ではそのおそれを回避する効果があるというものである。
このロジックによれば、副引例が奏する効果、または解決する課題等が、本来的な要請に基づくもの(あるいは普遍的な課題を解決するもの等)と言ってしまえば、常に副引例を組み合わせる動機付けがあることになってしまう。判断が恣意的にならないようにするために、判断者は、本来的な要請があることを丁寧に示す必要がある。また、無効を主張する立場としては、当然そうした要請を示す必要があるであろう。
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