2023年1月20日金曜日

[裁判例]携帯情報通信装置事件(令和3年(行ケ)10139号)

 携帯端末に表示しきれない高解像度の画像を受信したときに外部の表示装置に表示させる携帯情報通信装置の発明についての無効審判の審決取消訴訟である。



 特許請求の範囲の記載はとても長いが、ポイントとなるのは次の構成要件である。下線及び①②は筆者が追加。

G’ 前記無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、前記中央演算回路に送信し、前記中央演算回路が該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像データを処理し、前記グラフィックコントローラが、該中央演算回路の処理結果に基づき、前記単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段又は前記インターフェース手段に送信して、前記ディスプレイ手段又は前記外部ディスプレイ手段に画像を表示する機能(以下、「高解像度画像受信・処理・表示機能」と略記する)を有する、 携帯情報通信装置において、 
H’ 前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、①前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と、②前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と、を実現し、

 G´で言っているのは、無線通信手段によって高解像度画像を受信し、処理し、表示する一連の機能があるということであり、H’で言っているのは、その一連の処理において、①携帯端末の備え付けのディスプレイパネルと同じ解像度の画像を読み出して表示する機能、②ディスプレイより高解像度の画像を読み出して外部ディスプレイ手段に表示させるためにインターフェース手段に送信する機能、の2つがあるということである。

 さて、主引例となった甲1発明は以下のとおりである。

(甲1発明)
「甲1発明は、内部表示装置における内部表示用の表示データを格納するための領域と、内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置における外部表示用の表示データを格納するための領域を表示メモリに確保し、内部表示用の表示データを選択的に外部表示用の領域に格納することで、解像度の違いによる外部表示装置における表示領域を有効に利用することが可能となるという効果を奏する(【0104】)」



(周知技術)
「携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術は、周知技術であるといえる。」

(裁判所の判断)
「ア 甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについては、そもそも一切記載はない。もっとも、甲1文献の【0103】の「本装置を実現するコンピュータは、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、または通信媒体を介してプログラムを受信し、このプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行する。」との記載に照らせば、無線を含む通信媒体を「プログラム」を「受信」するために利用することは示唆されているといえる。また、甲1文献の【0083】では、表示内容を上位のアプリケーションが処理することも記載されているから、甲1発明において、「無線通信手段」を設け、「無線通信手段」で受信した「画像データ」を処理して画像を表示するように構成することまでは、当業者が容易に想到し得たことということも可能と考えられる。 
 しかし、甲1文献には、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータに関する解像度の記載はなく、無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信して、この「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」についてディスプレイ制御手段やインターフェース手段に送信するデジタル表示信号を生成する具体的な構成については、何らの開示や示唆もない。そうすると、結局、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到することができたとはいえないというべきである。」

「しかし、前示のとおり、甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについて一切記載はないものの、この点については想到可能であるとしても、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータの解像度に関する記載は一切なく、甲1発明の「画像データ」が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」であることについて、何らの開示や示唆もない。 
 また、前記認定の周知技術も、携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術を開示するのにとどまり、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信するとの点や、グラフィックコントローラは、携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフ
ェース手段に送信する機能を実現するとの点まで具体的に示唆するものではないから、前記 認定の周知技術を加味しても、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到できたとはいえないし、この点に係る構成が単なる設計事項であるということもできない。」

(コメント)
 甲1発明は、構成要件H’の①②を備えている。足りないのは、①②の処理が「前記高解像度画像受信・処理・表示機能(構成要件G)を実現する場合」の機能である点である。もう少し細かくいうと、甲1発明も画像の処理と表示はしているから、足りないのは、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信」する点である。
 携帯電話機の中に、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」が入ってくる経路として、無線通信手段を介して入ってくることも当然あり得る話だと思うが、そのことを開示した文献が示されなかったため、進歩性が認められたと考えられる。

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