2021年3月8日月曜日

[AI関連特許]故障予測装置(特開2019-8675)

 (拒絶例1)故障予測装置

 これまで登録例を紹介してきたが、登録と拒絶の境界を明らかにすべく拒絶例についても検討する。

【請求項1】
 管理対象機器を構成するプリント板の故障時期を予測する故障予測装置であって、
前記管理対象機器の稼働状況に対する該管理対象機器を構成するプリント板の故障時期を学習する機械学習装置を備え、
 前記機械学習装置は、
 前記管理対象機器の稼働状況を示す稼働状況データ及び前記管理対象機器の機器構成を示す機器構成データを環境の現在状態を表す状態変数として観測する状態観測部と、
 前記管理対象機器の保守履歴を示す保守履歴データをラベルデータとして取得するラベルデータ取得部と、
 前記状態変数と前記ラベルデータとを用いて、前記管理対象機器を構成するプリント板の故障時期と、前記稼働状況データ及び前記機器構成データとを関連付けて学習する学習部と、
 を備える故障予測装置。

 この発明は、稼働状況及び機器構成と保守履歴との関係を学習し、学習結果である故障推定モデルを用いてプリント板の故障時期を予測する発明である(故障推定モデルを用いた故障時期の予測については明確に規定されていない)。

 引用文献1には、保守管理サーバ50内の演算装置40が、保守管理データベース30から、保守対象装置11の稼動状況、構成情報、故障履歴を受け取ると、部品ごとおよび装置全体の負荷を計算し、部品ごとおよび装置全体の耐久性をニューロン法によって予測することによって、当該装置11の故障発生予測箇所、故障発生推定時刻等を算出する発明が記載されている(段落23~32、図1~2)。
 審査官は、ニューロン法が機械学習であるとして、本願発明と引用文献1との相違は、
故障予測の対象がブリント板か部品かの違いしかないとし、引用文献1に記載の発明において、プリント板のレベルで故障発生を予測することは、当業者であれば容易に推考し得ると判断した。
 ニューロン法がニューラルネットワークによる機械学習を示す用語なのかどうか、引用文献1からは明確ではないが、ニューロン法=ニューラルネットワークとの審査官の理解を前提とすれば、引用文献1には本願発明とほぼ同一の発明が開示されていると言える。
 

2021年3月7日日曜日

[AI関連発明]荷役車(特許6816933)

 (登録例6)荷役車 

【請求項1】

 無人運転と有人運転とに切り替え可能な荷役車であって、  前記有人運転によりカーブを走行する際に、荷重と、当該カーブの方向と、当該カーブの程度と、当該カーブに進入したときに前記荷役車が通路の幅方向中心からどの程度シフトしていたのかとを教師データとした機械学習を行って、推定モデルを生成するモデル生成手段と、  前記無人運転により次に走行すべきカーブが決定すると、荷重と、当該カーブの方向と、当該カーブの程度とを前記推定モデルにあてはめることにより、当該カーブに進入するときに前記荷役車が通路の幅方向中心からどの程度シフトしているのがよいのかを推定する最適シフト量推定手段と、  前記荷役車が当該カーブに進入するときのシフト量が推定された量に一致するように操舵装置を制御する操舵制御手段と、 を備えたことを特徴とする荷役車。

 この発明は荷役車がカーブを曲がるときに、通路の中心線に沿って走行するのではなく、幅方向中心線から左右のいずれかにシフトした位置を走行することが望ましい場合があるという知見に基づき、どの程度シフトするのが良いのかを、有人運転を教師データとして学習するという発明である。


 本件は、拒絶理由が通知されずに特許になっている。カーブを曲がるときに少し大回りで曲がった方がよいことは、人間ならば感覚的に当たり前であるが、無人運転において経路計画をする場合にはこういう感覚は持ち合わせていないのかもしれない。シフト量に着目した点が新しく、先行文献が見つからなかったと考えられる。



2021年3月6日土曜日

[AI関連発明]勧奨通知最適タイミング算出方法(特許6828203)

 (登録例5)勧奨通知最適タイミング算出方法

【請求項1】
  医療保険機関が実施する各種の医療行為や健康診断の受診を促す被保険者への勧奨通知最適タイミングを、コンピュータを用いて算出する方法であって、
  被保険者に係る複数の特徴量から抽出された説明変数と、時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを目的変数とした回帰分析によって得られた回帰式、又は前記説明変数と前記目的変数とした機械学習によって得られた機械学習モデルに、
  個々の前記被保険者の複数の特徴量から抽出された説明変数を入力して前記勧奨通知の時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを算出し、前記スコアに基づいて最適通知時期を決定する、
  ことを特徴とする、勧奨通知最適タイミング算出方法。

 この発明は、被保険者に健康診断等の受診を促す勧奨通知の最適なタイミングを算出する方法に関する。ここで、最適なタイミングとは、被保険者が勧奨通知を受けて健康診断等を受診する確率が高いタイミングである。

 発明の構成は、被保険者の複数の特徴量を説明変数、時期ごとの勧奨効果を示すスコアを目的変数として、あらかじめ回帰式または機械学習モデルを生成しておき、対象の被保険者の特徴量を回帰式または機械学習モデルに適用して時期を決定するというものである。

 審査経過を見ると、本発明者がすでに公開している技術として、機械学習によって学習したモデルを使って、被保険者の健診データから受診確率を求める論文や特許が存在した。これに対し、出願人は、「機械学習を用いて勧奨効果を上げることのみが開示されているに過ぎず、具体的な方法として最終目的とするアウトプットを「個々人の最適通知時期」とすることの記載はありません。」と主張し、特許査定を得た。この審査経過から、本件特許の特徴は、アウトプットとして最適通知時期を決定することであり、このアウトプットを得るあめに、時期ごとの勧奨効果の大きさを示すスコアを目的変数としていることと考えられる。

 アウトプットとして、最適通知時期を求めようと思えば、時期ごとの勧奨効果の大きさを目的変数とすることは自明なので、最適通知時期をアウトプットとするという発想が新しかったということになる。パラメータが新しいことによって特許がとれるパターンであり、その中でも目的変数の方が新しいパターンに分類できる。

2021年3月5日金曜日

[AI関連発明]心電図データの拡張方法(特許6831944)

 (登録例4)心電図データの拡張方法

【請求項1】
  心電図データを取得するステップと、
  前記心電図データを処理して複数の心拍データを取得するステップと、
  前記複数の心拍データのうち少なくとも2つの心拍データに基づいて、機械学習における学習用データの拡張データを生成するステップとを含む、ことを特徴とする心電図データの拡張方法。
【請求項2】
  前記心電図データを処理して複数の心拍データを取得する前記ステップは、
  前記心電図データを前処理するステップと、
  前処理された心電図データに対して心拍識別を行って、複数の心拍データを取得するステップとを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。

 この発明は、機械学習に使う学習用データ(教師データ)を水増しする方法の発明である。学習用データが少ないと適切な学習を行うことができないので、例えば、画像なら反転、回転させたり、様々なエフェクトをかけて、学習用データを増やす。

 心電図データの場合、画像と同じ処理を行ってしまうと、「心電図の医学的意義を破壊し、機械学習モデルの訓練に有効な効果を果たすことができない。」ことに鑑み、心電図データに特有の拡張を行うことがポイントのようである。このように、取り扱うデータの特徴に合わせた処理により、特許性を出すことができると思われる。

 ただし、請求項1は、「拡張データを生成するステップ」の内容が一切特定されていないので、生成された拡張データが学習用データとして機能するのか定かではない。明細書には、学習用データとして機能したことを示す実験結果もなく、そもそも心電図においてデータ拡張がWORKすることが示されていない。請求項2についても「前処理」の内容が規定されておらず、不明確と考えられる。

 心電図データの学習データを適切に拡張する方法がポイントなのであるから、そこは限定すべきであるし、その結果、うまく学習ができたことを示すべきと思う。



2021年3月4日木曜日

[AI関連発明]身体負荷推定装置(特許6822715)

 (登録例3)身体負荷推定装置

 【請求項1】
 手に圧力がかかる動作の際に身体の所定部位にかかる負荷の正解情報と、該動作の際における手の平側の荷重情報及び身体の一以上の部位の姿勢情報とが関連付けられた複数の教師データに基づいて機械学習されている学習済みモデルを格納するモデル格納手段と、
  対象者の手の平側で測定された荷重情報及び該対象者の身体の一以上の部位で測定された姿勢情報を測定タイミングで関連付け可能な状態で取得する取得手段と、
  前記取得された荷重情報及び姿勢情報を前記学習済みモデルに適用して、該荷重情報及び該姿勢情報が示す荷重及び姿勢に対応して前記対象者の前記所定部位にかかる負荷を推定する推定手段と、
  を備える身体負荷推定装置。

 請求項を見る限り、手の平側の荷重と姿勢と身体にかかる負荷との間に関係があるので、その関係性をあらかじめ学習しておき、学習済モデルを使って、手の平側の荷重と姿勢から負荷を推定すると言っている。答えを導く法則を学習しておくと言ってだけにしかみえないが、早期審査→一発査定であり、詳細はわからない。このようなケースで特許が取れるのは、パラメータが新しい場合であるが、本件については果たしてどうであろうか。

 明細書で挙げられた先行技術文献には、使用者の姿勢とその姿勢で腰に係る負荷をテーブル(下図)に記憶しておき、使用者が作業を開始したときに作業者の姿勢から手に許容される荷重を推定することが記載されている。
 

 先行技術文献と本件特許は共に、①手にかかる荷重、②姿勢、③身体(腰)の負荷に関係があるという知見に基づき、本件特許では③負荷を求め、先行技術文献では①荷重を求めている。テーブルと学習済モデルの違いだけでは特許はとれないと思うので、本件において何が決め手になったのかすぐには分からない。限界的な事例と思われる。

2021年3月3日水曜日

[AI関連発明]肌状態の評価支援(特許6821852)

(登録例2)肌状態の評価支援

【請求項1】 
 肌の表面のみを含む第1の画像と、前記肌の肌状態の評価を行う評価者によって、前記第1の画像から前記評価に適した領域として選択された1または複数の領域とが対応付けられた教師データを取得する取得ステップと、
  前記教師データに基づいて機械学習を行い、評価対象肌の表面のみを含む第2の画像を入力した場合に、前記第2の画像における肌状態の評価を行うための候補となる1または複数の領域を出力する学習済みモデルを生成する学習ステップと、
を備えた学習済みモデル生成方法。

 この発明は、肌を撮影した画像には状態の良い領域と悪い領域が混在しているため、どの領域が肌状態の評価に適しているかを見分けるには、経験と熟練を要することに鑑み、評価を行うための候補となる領域を選択する支援を行うものである。
 発明の構成としては、評価の対象として適した領域を教師データとして学習をしておき、その学習済みモデルを使って、処理対象の肌画像から評価領域を出力するというだけである。従来、熟練者がやっていたことをモデル化しただけであり、特許が認められるポイントがないような気がする。
 審査の過程を見ると、目、鼻、口といった顔の特定部位を含む画像を処理対象にし、これらを除外する発明は知られていたようであるが、本件発明は「顔の特定部位等を含まず、肌の表面のみを含む画像を処理対象」としていると主張して、特許が認められた。要するに、「肌の表面のみを含む画像を処理対象」とした引例がなかったということのようである。

2021年3月2日火曜日

[AI関連発明]点検システム(特許6807092)


 AI関連の発明は一般的には権利行使が難しいと考えられている。確かに、学習の処理自体の工夫に係る発明だと、その構成を特定することは難しい。一方、AIを利用した発明ならば、AIを利用していることを謳ったシステムに対しては、権利行使のきっかけをつかめる可能性がある。その反面、AIを利用する発明は公知の学習手法を利用しただけと見られがちで、特許の進歩性の観点から権利化が難しい。
 権利行使が可能と思われるAI関連発明の成立例があるか見てみたい。

(登録例1 点検システム)

【請求項1】
  無人飛行体により撮影されたコンクリート護岸の撮影画像を取得する画像取得部と、

  前記コンクリート護岸におけるヒビ割れの発生に関する統計情報に基づき、前記撮影画像に対して検索対象外範囲を設定する検索対象外範囲設定部と、
  コンクリート護岸における複数のヒビ割れ画像に基づき機械学習したヒビ割れ学習モデルを記憶する学習モデル記憶部と、
  前記撮影画像の内、前記検索対象外範囲を除いた検索対象範囲に対して、前記ヒビ割れ学習モデルを適用して前記検索対象範囲におけるヒビ割れを検出するヒビ割れ検出部と、
  前記ヒビ割れ検出部が検出したヒビ割れを示すヒビ割れ情報を出力するヒビ割れ情報出力部と、
  を備える点検システム。


 要するに画像を使ったヒビ割れの検出に、学習モデルを使ったというにすぎない。特許のポイントは、検索対象外範囲を設定する点である。
 明細書(例えば【0014】)の記載によれば、コンクリート護岸の上方は、波が直接当たりにくくヒビ割れが発生しにくいという事情がある一方、上方は車両や建造物の影響で誤検出が発生しやすいという状況がある。このような状況に鑑み、コンクリート護岸の上方は検索対象外範囲とすることで、精度良くヒビ割れを検出するという考え方に特許が認められたと思われる。
 AIの審査基準に記載された事例との関係では、教師データに前処理を行うパターンに該当する。

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...