2022年10月4日火曜日

[裁判例]国外のサーバからのプログラム配信について(平成30年(ネ)10077)

 最近話題になっている裁判例である。特許権は属地主義が原則であり、日本国内でのみ効力を有するが、本件は、プログラムを配信するサーバが米国にあることから、属地主義との関係で、権利侵害が認められるかどうかが争点の一つとなった。

 侵害が認定されたプログラムの発明は、ユーザが投稿したコメントを表示することができる動画の配信プログラムに関する発明であり、請求項は、次のとおりである。

【請求項9】
 動画を再生するとともに,前記動画上にコメントを表示する表示装置のコンピュータを, 
 前記動画を表示する領域である第1の表示欄に当該動画を再生して表示する動画再生手段, 
 コメントと,当該コメントが付与された時点における,動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間とを含むコメント情報を記憶するコメント情報記憶部に記憶された情報を参照し, 
 前記再生される動画の動画再生時間に基づいて,前記コメント情報記憶部に記憶されたコメント情報のうち,前記動画の動画再生時間に対応するコメント付与時間に対応するコメントをコメント情報記憶部から読み出し, 
 当該読み出されたコメントの一部を,前記コメントを表示する領域であって一部の領域が前記第1の表示欄の少なくとも一部と重なっており他の領域が前記第1の表示欄の外側にある第2の表示欄のうち,前記第1の表示欄の外側であって前記第2の表示欄の内側に表示するコメント表示手段, 
 として機能させるプログラム。

 裁判所は、被控訴人らのプログラムが上記特許の技術的範囲に属すると判断した上で、属地主義の原則との関係について、次のように判示した。

「b 我が国は、特許権について、いわゆる属地主義の原則を採用しており、これによれば、日本国の特許権は、日本国の領域内においてのみ効力を有するものである(最高裁平成7年(オ)第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁、前掲最高裁平成14年9月26日第一小法廷判決参照)。そして、本件配信を形式的かつ分析的にみれば、被控訴人ら各プログラムが米国の領域内にある電気通信回線(被控訴人ら各プログラムが格納されているサーバを含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内にある電気通信回線(ユーザが使用する端末装置を含む。)上を伝送される場合、日本国の領域内でも米国の領域内でもない地にある電気通信回線上を伝送される場合等を観念することができ、本件通信の全てが日本国の領域内で完結していない面があることは否めない。 
 しかしながら、本件発明1-9及び10のようにネットワークを通じて送信され得る発明につき特許権侵害が成立するために、問題となる提供行為が形式的にも全て日本国の領域内で完結することが必要であるとすると、そのような発明を実施しようとする者は、サーバ等の一部の設備を国外に移転するなどして容易に特許権侵害の責任を免れることとなってしまうところ、数多くの有用なネットワーク関連発明が存在する現代のデジタル社会において、かかる潜脱的な行為を許容することは著しく正義に反するというべきである。他方、特許発明の実施行為につき、形式的にはその全ての要素が日本国の領域内で完結するものでないとしても、実質的かつ全体的にみて、それが日本国の領域内で行われたと評価し得るものであれば、これに日本国の特許権の効力を及ぼしても、前記の属地主義には反しないと解される。
 したがって、問題となる提供行為については、当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか、当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか、当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか、当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているかなどの諸事情を考慮し、当該提供が実質的かつ全体的にみて、日本国の領域内で行われたものと評価し得るときは、日本国特許法にいう「提供」に該当すると解するのが相当である。
 c これを本件についてみると、本件配信は、日本国の領域内に所在するユーザが被控訴人ら各サービスに係るウェブサイトにアクセスすることにより開始され、完結されるものであって(甲3ないし5、44、46、47、丙1ないし3)、本件配信につき日本国の領域外で行われる部分と日本国の領域内で行われる部分とを明確かつ容易に区別することは困難であるし、本件配信の制御は、日本国の領域内に所在するユーザによって行われるものであり、また、本件配信は、動画の視聴を欲する日本国の領域内に所在するユーザに向けられたものである。さらに、本件配信によって初めて、日本国の領域内に所在するユーザは、コメントを付すなどした本件発明1-9及び10に係る動画を視聴することができるのであって、本件配信により得られる本件発明1-9及び10の効果は、日本国の領域内において発現している。これらの事情に照らすと、本件配信は、その一部に日本国の領域外で行われる部分があるとしても、これを実質的かつ全体的に考察すれば、日本国の領域内で行われたものと評価するのが相当である。 」

 このように、裁判所は、プログラムの提供が「実質的かつ全体的にみて」日本国の領域内で行われたか評価し得るかの基準として、以下を例示し、本件とのあてはめを行った。

①当該提供が日本国の領域外で行われる部分と領域内で行われる部分とに明確かつ容易に区別できるか
→日本国内のユーザにより配信が開始され完結するから、明確かつ容易に区別することは困難

②当該提供の制御が日本国の領域内で行われているか
→日本国内のユーザによって制御が行われる

③当該提供が日本国の領域内に所在する顧客等に向けられたものか
→動画の視聴を欲する日本国内のユーザに向けられたもの

④当該提供によって得られる特許発明の効果が日本国の領域内において発現しているか
→本件配信によって本件発明にかかる動画を視聴することができ、本件発明の効果は日本国内で発現している。

 裁判所が示した基準は例示なのでこれにとらわれることはないが、日本国内のユーザ向けにプログラムの配信をしていれば、上記のような基準を満たすことになりそうな気がする。
 注意が必要なのは、本件発明のプログラムが端末の機能を規定していることである。引用していないが請求項1は表示装置の発明であり、内容は、プログラムの発明と対応している。請求項1には属地主義の上記の論点はない。本件発明のようなケースでは、仮に、国外からのプログラム配信の侵害が認められなくても、装置の発明でカバーできる範囲である。(本判決の判示は考え方としては面白いが、実務的には、それほどありがたみがないような気がする。)
 本件は、構成要件の一部が国外のサーバで行われる発明とは趣が違うように感じる。

0 件のコメント:

コメントを投稿

[裁判例]【補足】システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 2022年12月29日の投稿で、タイトル記載の裁判例(審決取消訴訟)でシステムを装置に変えることに進歩性が認められたことを報告した。その中で、同日に出された侵害訴訟の判決では、同じ引例を理由に、新規性なしと判断されたことに非常に驚いたとコメントした。  この件について、今月号の...