2022年10月15日土曜日

[裁判例]間接侵害の要件-主観的要件(知財高裁 平成31年(ネ)10007号)

 前回の投稿と同じ裁判例より、特許法101条2号の間接侵害の主観的要件の判示を取り上げる。
 特許法101条2号は、
「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」
を侵害とみなすと規定しており、上記下線部分が主観的要件である。
 裁判所は、主観的要件①「特許発明であることを知りながら」、主観的要件②「発明の実施に用いられることを知りながら」に分けて検討している。

 本稿で取り上げるのは、特許が訂正された場合に、主観的要件を満たすのはいつの時点からか、という点である。
 経緯は以下のとおり。
・平成17年 7月22日 特許登録
・平成25年 4月 2日 警告書受領
・平成28年11月16日 訂正審決

 被告は、原審において、主観的要件①を満たすのは訂正審決日以降であると主張し、控訴審において、主観的要件②を満たすのは訂正審決日以降であると主張している。
 しかし、裁判所は、被告のいずれの主張も否定し、被告が警告書を受領した日以降、主観的要件①②を満たすと判断した。

[原審の判断]
 (イ) 主観的要件①について 
a 被告は,本件発明1(本件特許1に係る発明)の存在を知った時期は,本件第1特許の特許請求の範囲を本件発明1に係る構成要件のように訂正することを認めるとの審決(甲20)がされたことを知った平成28年11月16日であると主張している。 
 そこで,まず,特許発明について特許請求の範囲の訂正があった場合には,訂正後の特許請求の範囲に係る発明を知った時に主観的要件①を満たすことになるのか,それとも,訂正前の特許請求の範囲に係る発明を知っていれば,特許請求の範囲が訂正された後の発明との関係でも,主観的要件①を満たすことになるのかを検討する。 
 特許法101条2号が主観的要件①を間接侵害の要件とした趣旨は,同号の対象品は適法な用途にも使用することができる物であることから,部品等の販売業者に対して,部品等の供給先で行われる他人の実施内容についてまで,特許権が存在するか否かの注意義務を負わせることは酷であり,取引の安全を害するとの点にある。
 他方,特許請求の範囲等の訂正は,特許請求の範囲の減縮や誤記等の訂正等を目的とするものに限られ(特許法126条1項),特許請求の範囲等の訂正は,願書に(最初に)添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならず(同条5項),かつ,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならないとされている(同条6項)。そして,特許請求の範囲等の訂正をすべき旨の審決が確定したときは,その訂正後における特許請求の範囲により特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条)。 
 以上のように,特許請求の範囲の訂正が認められる場合が上記のように限定されていることを踏まえると,訂正前の特許請求の範囲に係る特許発明を知っていれば,特許請求の範囲が訂正された後の特許発明との関係でも,主観的要件①を満たすことになると解するのが相当である。このように解しても,特許法101条2号が主観的要件①を求めた趣旨に反するわけではないし,第三者にとって不意打ちとなることもないからである。 
 なお,本件第1特許の特許請求の範囲の訂正も誤記の訂正及び特許請求の範囲の減縮を目的とするもので,その他の訂正の要件も満たしており(甲19の1ないし20),被告製品3は本件発明1の技術的範囲に属する以上,上記訂正前の本件発明1の技術的範囲にも属することは明らかである。

[控訴審の判断]
 d 一審被告の主張について
・・(略)・・
 なお、一審被告は、同⑶イ(本判決前記第2の4⑹で補正されたもの)のとおり、本件では訂正前発明1に係る訂正前の発明は従来技術そのものであり、それとの関係ではいかなる物も課題解決不可欠品に該当することはあり得ないから、間接侵害が成立する余地はないと主張する。この主張は、主観的要件②を満たすためには、当該製品が「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であることの認識を必要とするとの趣旨と解される。しかし、上記のとおり、特許法101条2号において主観的要件②が必要とされる趣旨が、対象品(部品等)が適法な用途にも使用されるものであることから、その生産、譲渡等をしようとする者の取引の安全を図る点にあることからすると、当該製品が侵害用途に用いられることについて上記の意味での悪意であれば足り、それが「その発明による課題の解決に不可欠なもの」であることの認識までは要しないと解するのが相当である。したがって、一審被告の上記主張は採用することができない。 

[コメント]
 主観的要件①の判断について、訂正は特許請求の範囲を減縮する方向にしか行えないから第三者に対して不意打ちになることはない、というのはそのとおりと思う。補償金請求権(特65条)の場合には、特許請求の範囲の補正を行った場合には再度の警告が必要と考えられるが、これは補正によって権利範囲が広がることがあるからである。
 主観的要件②の判断について、課題解決不可欠品の要件と切り離して考えるべきというのは、そう言われればそういうものかと思う。
 今回の裁判例では、いったん警告をしておけば、それ以降は、間接侵害の主観的要件について悪意になり、特許請求の範囲の訂正をしても再度の警告は必要ないということが言える。

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