株式会社ジェイテクトが三菱電機株式会社を訴えた特許侵害訴訟の控訴審である。争点は多岐に渡るが、原審と控訴審とで判断が変わった間接侵害(特許法101条2号)の要件について取り上げる。
侵害訴訟で争われた4件の特許のうち、以下で説明するのは、特許3700528号(プログラマブル・コントローラにおける異常発生時にラダー回路を表示する装置)である。発明は、制御対象に異常が発生すると異常の種類を表示し、異常の種類を指定すると、異常現象が発生したラダー回路を表示するという技術に関し、その特徴はラダー回路の出力要素を指定するとその出力要素を入力要素とするラダー回路が表示され、これを順次繰り返すことで、異常の原因を容易に見つけることができるようにした点にある。
被疑侵害品は、被告表示器Aと被告製品3である。
被告表示器Aは、プログラマブル表示器であり、工場等における設備機械を制御する制御装置であるプログラマブル・コントローラ(以下「PLC」という。)等の状態を表示(モニタ)するとともに、PLC等に指令信号を送る機器(表示操作装置)である。
被告製品3は、被告表示器専用の画面作成ソフトウェアである。これには被告表示器のOS(基本機能OS及び拡張/オプション機能OS)とその他のソフトウェアが含まれている。
被告表示器Aに被告製品3をインストールした製品が対象特許の技術的範囲に属すると判断された。しかし、被告製品3をインストールするのはユーザなので、被告製品3をインストールした被告表示器Aを生産しているのはユーザであるとして、被告が直接侵害しているとは認められなかった。
被告による被告表示器Aと被告製品3の生産、譲渡等について、特許法101条2号の間接侵害が成立するかが本投稿で記載する内容である。
原審は、被告製品3については間接侵害が成立するが、被告表示器Aは「課題の解決に不可欠なもの」ではないとして、間接侵害が成立しないとした。
これに対し、控訴審では、被告製品3と被告表示器Aの両方について間接侵害が成立すると判断した。
[原審の判断]
エ 以上の認定を踏まえ、被告表示器Aや被告製品3が本件発明1「による課題の解決に不可欠なもの」に当たるかをさらに検討する。
(ア) まず、被告表示器Aがこれに当たるかを検討すると、確かに、被告表示器Aは表示器(表示装置)で、本件特許1の特許請求の範囲に記載された部材であって、これはラダー回路を表示したり、入出力要素をタッチしてその検索結果を表示したりするなど、本件発明1の実施に必要な物ではある。
しかし、本件発明1の特徴的技術手段との関係についてみると、被告表示器Aは、被告製品3がインストールされたパソコンで、動作設定を「回路モニタ」とする拡張機能スイッチが配置されたプロジェクトデータを作成することを前提に、被告製品3によってインストールされたプログラムで異常現象の発生がモニタされたときに、プログラムに従って、ラダー回路を表示し、そのタッチパネル上での入出力要素をタッチしてその検索結果を表示するものにすぎない。すなわち、被告表示器Aはプログラムに従ってラダー回路等の表示やタッチパネル上のタッチや検索結果の表示を可能としているにすぎないが、これらは従来技術においても採用されていた構成にすぎない。
したがって、被告表示器Aは、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらすものに当たるとは認められない。
(イ) 他方で、上記判示のとおり、被告製品3は、拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分を格納しており、これが被告表示器Aにインストールされることによって、被告表示器Aにおいて回路モニタ機能等の使用が可能となるのである。
そうすると、被告製品3は、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらすものであると認められる。
したがって、被告製品3は本件発明1「による課題の解決に不可欠なもの」に当たる。
[控訴審の判断]
(ア)課題解決不可欠品の意義
特許法101条2号において、その生産、譲渡等を侵害行為とみなす物を「発明による課題の解決に不可欠なもの」とした趣旨は、同号が対象とする物が、侵害用途のみならず非侵害用途にも用いることができるものであることから、特許権の効力の不当な拡張にならないよう、譲渡等の行為を侵害行為とみなす物(間接侵害品)を、発明という観点から見て重要な部品、道具、原料等(以下「部品等」という。)に限定する点にあり、そのために、単に「発明の実施に不可欠なもの」ではなく、「発明による課題の解決に不可欠なもの」と規定されていると解される。
この趣旨に照らせば、「発明による課題の解決に不可欠なもの」(課題解決不可欠品)とは、それを用いることにより初めて「発明の解決しようとする課題」が解決されるような部品等、換言すれば、従来技術の問題点を解決するための方法として、当該発明が新たに開示する特徴的技術手段について、当該手段を特徴付けている特有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等が、これに該当するものと解するのが相当である。
(イ)本件発明1の特徴的技術手段について
・・略・・
(ウ)特徴的な部品等
前記のとおり、特許法101条2号は、間接侵害品を当該発明の特徴的部分を特徴付ける特有の構成等を直接もたらす特徴的な部品等に限定していると解されるが、「部品等」の範囲は、物理的又は機能的な一体性を有するか否かを社会的経済的な側面からの観察を含めて決定されるべきものであり、ある部材が既存の部品等であっても、当該発明の課題解決に供する部品等として用いるためのものとして製造販売等がされているような場合には、当該部材もまた当該発明による課題の解決に不可欠なものに該当すると解すべきものである。なぜならば、特徴的な部品等といえども公知の部品等が組み合わせられているにすぎない場合が多いところ、一体性を有するものも形式的に分離できるのであれば直ちに間接侵害の適用が排除されるとすると、間接侵害の規定が及ぶ範囲を極度に限定することとなり、特許法が間接侵害を特許権侵害とみなして特許権の保護を認めた趣旨に著しく反することになるからである。
(エ)被告製品3について
被告製品3は、拡張/オプション機能OSのうちの回路モニタ機能等部分を格納しており、これが被告表示器Aにインストールされることによって、被告表示器Aにおいて回路モニタ機能等の使用が可能となるものである。そして、被告製品3の回路モニタ機能等部分とこれを除く他の部分とは、物理的にかつ機能的にも一体性を有するものと認められる。
そうすると、被告製品3は、全体として、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品であると認められる。
したがって、被告製品3は本件発明1の課題解決不可欠品に当たる。
(オ)被告表示器Aについて
本件発明1が新たに開示する特徴的技術手段である、異常発生時のタッチによる接点検索との構成は、被告表示器Aと被告製品3の双方があって初めて実現し得る構成である。そして、一審被告が自認するとおり、回路モニタ機能等を実現するために被告表示器AにインストールできるOSは被告製品3のみであり、同機能の実現のために被告製品3がインストールできる表示器は被告表示器Aのみであるから(甲5、8)、上記構成を実現するように被告表示器Aが機能し得るのは、被告製品3のOSがインストールされた場合であり、かつ、その場合に限る。その上、被告表示器Aと被告製品3は、いずれも一審被告が生産、販売するものであり、一審被告は上記のような構成を熟知し、あえてこのような構成を選択し、かつ、顧客に両者を提供しているものといえる。
以上からすると、被告表示器Aと被告製品3とは、たまたま物理的に別個の製品とされたことにより、一つの機能が複数の部品に分属させられているものの、本来的には、被告表示器Aは、被告製品3と機能的一体不可分の関係にあるものであって、独立した製品とされていたとしても、本件発明1の特徴的技術手段を直接もたらす特徴的部品等を構成するものであるというべきである。
したがって、被告表示器Aは本件発明1の課題解決不可欠品である。
[コメント]
控訴審では、被告表示器Aと被告製品3の一体不可分性に鑑みて、それ自体は既存の部品等といえる被告表示器Aも課題解決不可欠品と認定し、間接侵害を認めた。
この裁判例によれば、既存の部品等は原則として課題解決不可欠品ではないが、課題解決不可分品との一体不可分性が認められれば、既存の部品等であっても発明の課題解決に供する部品等として用いるためのものとして、間接侵害が認められることがある。
物理的又は機能的な一体性を有するか否かの判断は「社会的経済的な側面からの観察を含めて決定されるべき」としており、ケースバイケースであるが、本件で考慮された事実は、
・被告表示器Aに被告製品3をインストールした場合にのみ、本件特許発明の構成が実現できること
・被告表示器Aと被告製品3は、いずれも被告が生産、販売し、事情を熟知していることであった。
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