無効審決(請求棄却)に対する審決取消訴訟である。発明は、マッサージチェアの制御に関し、マッサージチェアを制御するプログラムをダウンロードするとともに、リモートコントローラから制御を行わせる発明である。
【請求項1】(下線は、相違点を示すために引いた)
マッサージ装置であって、
マッサージ部と、
リモートコントローラと、
前記マッサージ部の運動を駆動するように機能する駆動部と、
前記駆動部と接続された、縮小命令セットコンピュータであるマイクロコトローラとを備え、前記マイクロコントローラは、
外部装置と接続し、
前記マイクロコントローラによって実行可能なマッサージプログラムのプログラムコードと、前記マッサージプログラムと関連付けられたアイコンのグラフィカルコンテンツとを、暗号化された形式で前記外部装置から受信して前記マッサージプログラムをメモリに保存し、
前記外部装置から受信した前記マッサージプログラムと前記アイコンの前記グラフィカルコンテンツとを復号し、
前記アイコンを前記リモートコントローラに保存させ、一連のマッサージ動作を身体に施すために前記マッサージ部を介して前記復号されたマッサージプログラムを実行するように構成される、マッサージ装置。
審決の相違点の認定について争いはない。
相違点1は、本件発明では、暗号化された形式で受信したマッサージプログラム及びアイコングラフィカルコンテンツを、復号してリモートコントローラに保存している点、
相違点2は、マイクロコントローラが縮小命令セットコンピュータである点である。
[裁判所の判断]
(相違点1について)
「d そして、本件発明1において、「アイコンをリモートコントローラに保存させること」が特定されているが、アイコンはプログラム選択という操作に利用されるものであり、甲1発明1においては、操作手段としてリモートコントローラを有しているのであるから、アイコンによって選択されることが予定されているプログラムをダウンロードした後、そのプログラムがアイコンによって選択できるように対処すべきことは、当業者が当然考慮すべき普遍的な課題であるところ、その普遍的課題に照らして、甲1発明1に操作手段として備わっているリモートコントローラにアイコンを保存させることは、当然に考慮する設計的事項にすぎず、しかも、ダウンロードしたアイコンをリモートコントローラに保存することも周知の技術である(甲2、甲3)から、当業者であれば、「アイコンをリモートコントローラに保存させること」は、容易に想到し得たものと認められる。 」
※ここでは割愛したが、プログラムやアイコンを暗号化して通信することは周知技術であると判断されている。
(相違点2について)
「・・・このように、本件特許の出願時において、プロセッサアーキテクチャとしてはRISC(縮小命令セットコンピュータ)が主流となっており、また、マッサージ装置の技術分野においてRISCを用いることも周知技術であったから、甲1発明1において、治療プログラムを実行する主データ処理装置200(マイクロコントローラ)としてRISCを採用し、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得たものであり、そのことにより、格別な効果を奏するものでもないと認められる。」
以上のように、裁判所の判断は至極当然のように思われる。ではなぜ、審決は、同じ証拠をみて、進歩性ありと判断したのか。
審決は、甲2,甲3に記載されているのは、「駆動部に接続されたマイクロコンピュータ」ではないので、本件発明に係る構成が開示されていないと判断した。
「したがって、甲2に記載のシステムにおいて、制御端末110が被制御端末の操作実行ファイル及びその操作に対応するアイコンを受信し、リモコン端末140に対して上記アイコンなどの識別子を送信しているとしても、上記相違点1における「駆動部に接続されたマイクロコントローラによる処理」に関するものではなく、上記相違点1における本件発明1に係る構成を開示するものとはならない。(本件審決84頁)」
この点に関し、裁判所は次のように、引用文献を限定的に解釈すべきでないと判示した。
「本件審決は、甲2において、制御端末110から複数の家電機器に対する制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、制御端末110は家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではなく、また、甲3において、AV用集中制御装置(12)から複数のAV用機器(14)に対する制御命令は、家電機器の制御部に対して実行されるものであるから、AV用集中制御装置(12)はAV用機器の駆動部に接続して制御する装置ではないので、いずれも、本件発明1の「駆動部に接続されたマイクロコントローラ」に相当するものではないと解釈した。しかし、甲2及び甲3に記載された技術的事項は、前記⑶ア(イ)、イ(イ)のとおり認定されるものであって、本件審決のように、制御端末110が家電機器の駆動部に接続して制御する装置ではないこと、AV用集中制御装置(12)がAV用機器の駆動部に接続して制御する装置ではないことと限定的に解釈すべき根拠はなく、本件審決による甲2及び甲3の記載事項から把握される技術の認定には誤りがある。
したがって、被告の上記主張は採用することはできない。」
[コメント]
引用文献からどういう発明を抽出するかは、しばしば問題となる。事案によっては、認定すべき発明を細分化しすぎ(いいとこどり)であると言われる。
本件の場合は、甲2,甲3は周知技術として認定されているものの、普遍的課題に照らして当然に考慮する設計事項にすぎない、との判断が先にあるので、その時点で、進歩性なしという事案であったと思われる。
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