2020年1月12日日曜日

住宅地図事件(知財高裁 令和元年7月19日)

 ヤフーが提供する地図が住宅地図に関する特許を侵害するとして、損害賠償請求を求めた事件である。対象の特許は、小型で廉価かつ検索を容易に行える住宅地図を提供することを目的として、一般住宅に関しては名称を省略することで縮尺を圧縮すると共に、地図を適宜に分割して区画化し、区分に付した記号と住宅の番地を対応させた索引を設けたものである。

 本件特許は、「地図の大型化や大冊化を招き」とあるように、書籍としての地図を対象としているものである。縮尺を圧縮しつつ検索も容易にするという課題を解決するために、地図を区画化して、そこに索引を付けるという構成を採用しているので、区画は視認できるものでなくてはならない、という本質的なところで、電子的な地図とは異なっている。 
 大型化や大冊化を防ぐための本発明の工夫はなかなかのものと思うが、本件訴訟に関しては、対象が異なっている感は否めない。

※以下、裁判所の判断
(3)ア 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記(2)の本件明細書の開示事項を総合すると,本件発明の技術的意義は,従来の住宅地図においては,建物表示に住所番地及び居住者氏名も全て併記されていたため,肉眼でも判別可能な実用性を確保するために縮尺度を低いものにする必要があり,これに伴って全体として地図の大型化や大冊化を招き,この大型化や大冊化が氏名の記載変更作業の実地調査に係る人件費と相俟って住宅地図を高価格なものとし,更に氏名の公表を希望しない住人についても住宅地図に氏名を登載してしまうこととなるため,プライバシーの保護という点からも問題を有し,また,従来の住宅地図の付属の索引は,住所の丁目及びそれぞれの丁目に該当するページだけが掲載されていたため,「目的とする居住地(建物)を探し出す作業」(検索)が,煩雑で面倒であり,迅速さに欠け,非能率な作業となっていたという課題があったことから,本件発明の住宅地図は,この課題を解決するため,検索の目安となる公共施設や著名ビル等を除く一般住宅及び建物については,居住人氏名や建物名称の記載を省略し,住宅及び建物のポリゴンと番地のみを記載することにより,縮尺度の高い,広い鳥瞰性を備えた構成の地図とし(構成要件B及びC),地図の各ページを適宜に分割して区画化した上で,地図に記載の全ての住宅建物の所在番地を,住宅建物の記載ページ及び記載区画を特定する記号番号と一覧的に対応させた付属の索引欄を設ける構成(構成要件DないしF)を採用することにより,小判で,薄い,取り扱いの容易な廉価な住宅地図を提供することができ,また,上記索引欄を付すことによって,全ての建物についてその掲載ページと当該ページ内の該当区画が容易に分かるため,簡潔で見やすく,迅速な検索の可能な住宅地図を提供することができるという効果を奏することにあるものと認められる。

被告地図が表示された画面(被告地図プログラムの構成(1)によって表示された〔画面7〕,〔画面8〕,被告地図プログラムの構成(2)によって表示された〔画面9〕ないし〔画面12〕)から,被告地図のデータが複数の区画に分割されていること及びその分割された区画の範囲を認識することはできない。被告地図において「メッシュ化」がされていて,また,被告地図に係るデータが複数のデータとして管理されているとしても,被告地図プログラムの構成(分説)及び前記アに照らし,利用者は,「メッシュ化」されている範囲や区分されたデータを通常認識しないだけでなく,それらに対応する区画の記号番号を認識することはない。したがって,被告地図において,線その他の方法及び区画の記号番号により,ページにある複数の区画の中で,検索対象の建物が所在する地番に対応する区画を認識することができるとはいえない。そうすると,前記(3)に照らし,被告地図において,「各ページ」が,「適宜に分割して区画化」されているとはいえない。



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