本件特許は、いわゆる人工知能に関する発明を記載しており、このような特許で権利行使をした画期的なケースである。
本件特許は、特許請求の範囲(下記)だけを読んで特許権者寄りに善解をすれば、構成要件1Aは、画像等をデジタルデータに変換することを述べており、構成要件1B~1Dは、データ同士の関係を学習するという理解が全く不可能というわけではない。特許権者としては、かなり広い権利範囲を持つと考えていたのかもしれない。特許権者は、「仕事を覚える」「処理マップを自分で作成する」「知識を保存・応用する」等の被告製品のパンフレットの記載をもとに特許権侵害を主張したが、「仕事を覚える」等の行為を行うものはすべて特許の権利範囲に含まれるかのような主張は認められる余地はなく、構成要件充足性を一つ一つ確認していかなくてはならないことは、他分野の特許と同じである。
裁判所が、構成要件充足性を否定する際に、「・・・機能を有していると認めるに足りる証拠はない」等と述べていることは、人工知能に関する特許では、侵害の立証が容易ではないことを示している。
本件特許
1A 画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,
1B パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成するパターン制御器と,
1C 入力した情報の価値を分析する情報分析器を備え,
1D 有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン生成機。
各構成要件について具体的な例を挙げて説明する。
構成要件1Aは、犬の画像をパターン(色、輝度等に対応した1,0の信号)に変換し、言語情報の「いぬ」を整理した型に変換することであり、構成要件1Bは、犬の画像と「いぬ」の言語情報がともに発生する場合には、犬の画像のパターンと「いぬ」のパターンの間に結合関係を生成することである。
構成要件1Aは、犬の画像をパターン(色、輝度等に対応した1,0の信号)に変換し、言語情報の「いぬ」を整理した型に変換することであり、構成要件1Bは、犬の画像と「いぬ」の言語情報がともに発生する場合には、犬の画像のパターンと「いぬ」のパターンの間に結合関係を生成することである。
構成要件1C、1Dは、入力された情報を分析し、有用であると判断した場合に、上記の結合関係を記録していくことを規定している。
裁判所の判断
(参考URL)088873_hanrei.pdf (courts.go.jp)イ 原告は,本件製品のパンフレットや動画において,アメリアが「感情的な対応力」を有するとされ,アメリアの表情が「EQ(共感指数)」により変化させられ,ユーザがアメリアの感情を画像で確認できるようになっていることなどを根拠として,本件装置は「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパターン変換器」を有していると主張する。
・構成要件1Bについて
・構成要件1Dについて
かえって,本件製品のビデオ(甲12・図5)には,全ての質疑応答がアメリアの経験と知識に加えられる旨の記載があり,これによれば,仮にアメリアが情報分析器を備えているとしても,あらゆる情報をいったん記録しつつ,その中から有用な情報を抽出等する構成を採用しているとも考えられるところ,本件製品のパンフレット等には,本件装置が入力された情報の入力性について判断し,有用な情報のみを記録するとの機能を備えていることを示す記載は存在しない。
そうすると,本件装置が「仕事を覚える」などの上記行為を行うことができることから,直ちに,同装置が入力された情報の有用性を判断し,有用と判断された情報のみを記録する機能を有するということはできない。
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