2020年1月19日日曜日

金融商品取引管理装置事件(知財高裁 令和元年10月8日)


 無効審判の請求不成立に対する審決取消訴訟である。無効理由は、進歩性欠如とサポート要件違反があるが、ここではサポート要件違反を取り上げる。争点は、明細書に機能A+機能Bという構成が開示されているのに対し、機能Aのみを取り出してクレームすることがサポート要件違反に当たるかどうかである。
 具体的には、請求項1は、外為取引において注文を出す方式の一つである「シフト機能」を規定したものである。これに対し、実施の形態には、この「シフト機能」と「いったんスルー注文」及び「決済トレール注文」を組み合わせた構成が開示され、「シフト機能」単独の実施の形態はなかった。
 裁判所は、「シフト機能」自体が効果を有しており、組み合わされた他の機能とは別個の処理であることが読み取れるとして、「シフト機能」のみの発明を認めた。
 本件は、分割出願に係る特許であるが、原出願は、「決済トレール注文」に主眼をおいた明細書となっていたため、「シフト機能」のみからなる実施形態がなかったと思われる。しかし、そのような場合であっても、他の機能と分離可能である場合には、クレームアップが可能である。ただし、このようなケースでは、従たる機能について、単独で機能することも付言しておくとなお良い。

※以下、裁判所の判断
イ ・・・上記①の記載から,「シフト機能」は,「新規注文と決済注文が少なくとも1回ずつ約定したのちに,更に新規注文や決済注文が発注される際に,先に発注済の注文の価格や価格帯とは異なる価格や価格帯にシフトさせた状態で,新たな注文を発注させる態様の注文形態」であり,シフトされる先に発注済の注文には,「新規注文」又は「決済注文」の一方のみの構成又は双方の構成が含まれること,先に発注済の一つの注文の「価格」をシフトさせる構成のものと先に発注済の複数の注文の「価格帯」をシフトさせる構成のものが含まれることを理解できる。
 また,上記①ないし③の記載から,「シフト機能」は,「相場価格を反映した注文の発注を行うことができる」という効果を奏し,「いったんスルー注文」,「決済トレール注文」や,各種のイフダン注文(例えば…「リピートイフダン注文」や「トラップリピートイフダン注文」)」等の注文方法とは別個の処理であること,「シフト機能」にこれらの各種の注文方法のいずれを組み合わせるかは任意であることを理解できる。

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