2022年12月29日木曜日

[裁判例]システムを装置に変えることは容易か(令和3年(行ケ)10027号)

 株式会社REVO等が保有する特許に対して、SELF株式会社が起こした無効審判の審決取消訴訟である。並行して、株式会社REVO等がSELF株式会社を特許侵害で訴えており(令和4年(ネ)10008号)、その件も同じ裁判体によって判断され、同日に判決が言い渡されている。

 対象の特許は、健康管理を想定した情報提供装置の発明であり、一度に多くの個人情報を入力させるのはユーザにとって負担が大きいので、最初に個人情報の入力を受け付けた後は、折に触れてユーザに質問して、負担のない態様で個人情報の入力をさせることをポイントとする発明である。
【請求項1】
1A ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段と, 
1B 前記第1受付手段によって受け付けていない個人情報に対応する属性の質問を行う質問手段と, 
1C 前記質問手段による質問に対する返答である個人情報を受け付ける第2受 付手段と, 
1D 前記第1及び第2受付手段によって受け付けられた個人情報と当該個人情報に対応する属性とが紐付けた状態で格納される格納媒体と, 
1E 前記第1又は第2受付手段によって受け付けられた個人情報に基づいて前記ユーザに対して提案を行う提案手段と,を備え, 
1F 前記提案手段は,前記個人情報に基づいてウェブサイトから前記ユーザに対して提案すべき情報を取得する手段と, 
1G 前記個人情報に基づいてユーザに注意を促す手段と,を有する 
1H 情報提供装置。

 引用発明は、ユーザの意欲を喚起する学習・生活支援システムであり、対象特許と同様に、段階的な個人情報の入力を受け付ける構成を有するものである(請求人はそのように主張している)。
 審決では、3つの相違点を認定しており、裁判所はそのうちの相違点3について相違があり、かつ、容易想到でもないと判断した。その相違点というのは、次である。

・相違点3
 情報提供システムが、本件発明1は「情報提供装置」であるのに対し、甲1発明は、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2とユーザ端末3とを備える「学習・生活支援システム1」である点。 

[裁判所の判断]
 裁判所は、本件発明は装置であるのに対し、甲1発明はシステムであるとして、新規性を認めた上、進歩性について次のように判断した。

「イ 前記アの記載事項によれば、前記アの刊行物には、①スマートフォンを利用した店舗検索システムにおいて、その処理の一部をスマートフォンで行う場合と、Webサーバで行う場合があること(前記ア(ア))、②クラウドサービスでは、利用者は、最低限の環境、すなわち、携帯情報端末等のクライアント、その上で働くWebブラウザ等を用意すればサービスを利用できること(同(イ))、③場所に関する表現を含むコンテンツにおいて、表現された箇所を見つけ出すことを可能とする情報提供システムの発明において、そのシステムの構成要素が閲覧端末に搭載されるものが実施例の一つとして開示されていること(同(ウ))が認められる。 
 しかしながら、上記①ないし③から、一般的に、情報提供サービスを行う場合において、当該サービスを提供するために必要となる処理をサーバを含むシステム全体で行うことと、当該処理をユーザ端末のみで行うことが、提供するサービスの内容いかんにかかわらず適宜選択可能な事項であるとはいえない。そして、当業者が、ネットワークNを介して接続された学習・生活支援サーバ2と、複数の受講生・生徒が使用するユーザ端末3とを備え、受講生・生徒同士がコミュニケーションをとることのできる甲1発明の「学習・生活支援システム1」において、当該システムで必要となる処理の全てを単独のユーザ端末3で行うようにすることについては、その必要性、合理性が認められない。 
 よって、甲1発明の「学習・生活支援システム1」を単独の情報提供装置に変更することが設計的事項の範疇にあるということはできない。 
 ウ この点に関し、原告は、甲1の学習・生活支援サーバ2に実装された記憶部をユーザ端末3に配置変更することは、甲1の【0022】に記載されているから、甲1に接した当業者であれば、ユーザ端末3の制御部が、当該記憶部から個人情報を読み出し、ユーザ端末3の制御部によってユーザに対する提案が実現されるように設計変更することは容易である旨主張する。 
 しかし、甲1の【0022】には、学習・生活支援サーバ2が備える記憶部に記憶されるようにされている各種情報をユーザ端末3に記憶するようにしてもよいとの記載があるにすぎず、学習・生活支援サーバ2が備える他の機能をユーザ端末3に備えることについての記載や示唆はない。
 したがって、甲1に接した当業者が、甲1発明の「学習・生活支援システム1」の構成全体を単独の情報提供装置に変更することの動機付けは認められないから、相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。 
 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 

(コメント)
 装置とシステムとで構成上の違いがあるから新規性あり、というところまでよいとして、システムで構成している甲1発明を装置に変更するのが容易でないという判断には驚いた。甲1発明が学習・生活支援システムであるという点を考慮して、単独の装置では、実現不可能ということを考慮したと思われる。確かに、甲1発明を出発点とすれば、システムを装置に変えるのは困難ということは言えるかもしれないが、たまたま選んできた引例がそういう前提だったというだけで、発明のポイントは開示されているのではないか。特許のための議論という感じは否めないが、こういう議論が通用する可能性があることは留意しておいた方がよいと思う。

 さて、本件に関してさらに驚いたのは、同日に出された侵害訴訟の判決では、本件発明は、甲1発明を理由に、新規性なしと判断されたことである。(いや、これは自分が何かを見落としているのかもしれない。) 下記の判決文における乙8が上で述べた甲1発明である。

[裁判所の判断](侵害訴訟)
「(ウ) 構成要件1Hについて 
a 乙8発明1の学習・生活支援サーバ2は、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」に相当するものである。 
 b これに対し、控訴人らは、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」は、「ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段と、」という構成要件1Aを含む各手段等を備えるものであり、本件明細書の【0029】の記載から、構成要件1Aの「第1受付手段」は、「タッチパネル114」と「制御部101」と「記憶部102」とが協働して実現することができるものと解釈すべきであるところ、乙8発明1の構成1hの「学習・生活支援サーバ」は、「タッチパネル114」のようなユーザインタフェースを有していないから、本件発明1の構成要件1Hの「情報提供装置」と、乙8発明1の構成1hの「学習・生活支援サーバ」は、ユーザインタフェースの有無という点で相違すると主張する。 
 しかるところ、本件発明1の構成要件Hの「情報提供装置」は、構成要件1Aの「第1受付手段」を備えるものであるが、前記(ア)bのとおり、本件特許の特許請求の範囲(請求項1)には、本件発明1の「ユーザから取得したい個人情報のうち幾つかを予め受け付ける第1受付手段」を「タッチパネル」のようなユーザインタフェースを有するものに限定する記載はないから、控訴人らの上記主張は、その前提において採用することができない。 
 したがって、控訴人らの上記主張は、理由がない。 
ウ まとめ 
 以上によれば、乙8発明1は、本件発明1の構成要件1Aないし1Hの構成を全て有するから、本件発明1は、乙8発明1と同一の発明であるものと認められる。 
 したがって、本件発明1に係る本件特許には、新規性欠如の無効理由(特許法29条1項3号、123条1項2号)がある。 」

(コメント)
 こちらでは、進歩性欠如ではなく、新規性欠如である。装置とシステムは実質的に違いはないと。

2022年12月22日木曜日

[EP]UIは技術的事項かPart3(T1143/06)

 この審決は、大容量のデータベースを所定のソート条件で検索したときの検索結果を表示するデータ選択システムの発明(出願人はブリティッシュテレコム)に関する。
 顧客ファイルを例として、この発明のポイントを説明する。ユーザがソートのための文(ステートメント)を選択すると、データ選択システムは、ソート文と顧客ファイルとの関連性を決定する。そして、データ選択システムは、ディスプレイにソート文を表示すると共に、顧客ファイルを示すデータ要素を表示する。このとき、関連性に基づいて、少なくとも1つのデータ要素を最初の位置からソート文の方へ相対的に移動させるエフェクトを表示する。そして、データ要素を選択することで顧客ファイルを選択する、というものである。


 上の明細書の図6の例では、108,110,112がソート文である。108は宛先Aへコールしたトランザクションデータ、110は宛先Bへコールしたトランザクションデータ、112はISDNによるコールのトランザクション、というソート文である。
 114,116,・・・122がデータの要素であり、124は最初の位置である。データ要素は、ソート文との関連性に基づいて、最初の位置124からソート文108~112に向かって相対的に移動する。例えば、要素114は、宛先Aへのコールが25%、宛先Bへのコールが0%、ISDNによるコールが0%の顧客ファイルを示す。要素114はソート文108に向かって移動する。要素120は、宛先Aへのコールが40%、宛先Bへのコールが40%、ISDNによるコールが0%の顧客ファイルを示す。要素120は、ソート文108と110から等距離にある軌道上を移動し、122に至る。
 
(先行文献D1との相違)
 本件発明がD1と異なるのは、各データ要素の移動速度を決定し、各データ要素を相対的に移動させる点のみである。

(審判部の判断)
 さて、本発明に戻ると、データファイルを象徴する要素が画面上を移動することで、情報を伝達することを意図している。このことは、特許明細書自体から明らかである。「各要素は、それが表すデータファイルとソートステートメントの関連性に従って動くので、データのパターンは容易に認識できる」(3頁第2文)。この特徴を単独で考えると、EPC 第52条(2)(d)の意味での「情報の提示」であると判断されなければならない。したがって、請求項の文脈では、この特徴が技術的効果を追加的にもたらす場合にのみ、進歩性に寄与することができる。

 審判部の見解は、唯一の新機能が表示要素の移動に関するものであるため、本発明は情報の検索と取得に直接関係する問題を解決するものではないというものである。ビジュアライゼーションの直接的な効果は、それがユーザに与える印象である。この問題はあまりにも広範囲に及んでいる。より正確には、本発明は、データファイルに関する情報を、人が容易に評価できるような方法で提示する問題を解決するものであり、この人は、データベース内のデータファイルの検索および取得のためのシステムのユーザである。この表現は、この問題が純粋に技術的なものでないことをより明確に示している。実際、理論的には、同じ情報を自然文の記述や表で表示することも可能である。(これらの表示方法が実際に適切でないかは別問題である)。したがって、直接的な技術的効果はないように思われる。

(コメント)
 下線を引いたように、ビジュアライゼーションはユーザに与える印象であり、技術的なものではないと判断された。
 2つめの下線にあるとおり、同じ情報を別の態様で表すことができるかどうか?という観点は、ユーザに与える印象にかかるビジュアライゼーションなのか、技術的効果を伴うものかを判断する上で、一つの基準になるように思った。



 

2022年12月15日木曜日

[EP]UIは技術的事項かPart2(T1741/08)

  PC等のユーザーインターフェースに関する発明についての審判である。明細書の図面の一部を抜粋する。(カラーの部分は、筆者にて追記)


 この例は、旅行の予約をする画面であり、上の赤のところが手続きの流れを示している。不鮮明であるが、具体的には、

「一般データを入力(Enter General Data)→サービスの選択(Select Service)→レビューと予約(Review and Book)→確認(Confirmation)」

という手順で、このサイトの入力を進めることを示している。その下の青の部分は、「サービスの選択」の中のサブの手順であり、

「フライトの検索(Search for Flight)→フライトの選択(Select Flight)→レビュー(Review)」

という手順を示している。一番下の大きな枠は、フライトの検索条件を入力するためのインターフェースである。
 本発明はこのようなインターフェースにより、多くのステップやサブステップを必要とするデータ入力のプロセスにおいて到達した段階を特定することが容易になるというものである。

(出願人の主張)
 出願人は、コンピュータ資源の使用量の削減が、本件において要求される付加的な技術的効果であると主張した。その心は、ユーザーは、現在の段階で入力すべきデータの性質をより迅速に把握することができる。迅速に対応することで、時間のかかる入力トランザクションが少なくなれば、使用するコンピュータ資源が少なくなるという技術的効果があるというものである。

(審判部の判断)
 特定のGUIレイアウトは、経験の浅いユーザーが、どこに、どのようなデータを入力すべきかを探す時間を確かに短縮することができると、審判部は考える。その結果、より少ないコンピュータ資源が使用されるかもしれない。しかし、この資源使用の削減は、特定の情報提示方法によって与えられた視覚情報をユーザーの脳がどのように知覚し処理するかによって生じるものである。
 出願人は、事実上、次のような効果の連鎖があることを主張しているのである。すなわち、レイアウトの改善(判例によれば、これはまさに「情報の提示」である)により、ユーザーの「認知的負担が軽減」される;そのためユーザーの反応が速くなる;したがってコンピュータが必要とする資源が少なくなる。
 しかし、技術的な効果という点では、レイアウトがユーザーの心理に影響を与える;先行技術よりも精神的な移行が早く行われる;ユーザーの反応が早くなり、コンピュータのリソース使用量が減る、というのは壊れた連鎖である。これらのリンクのうち、技術的効果と呼べるのは3番目だけである。つまり、従来技術よりも、ユーザーがコンピュータをアイドル状態にしておく時間が短いため、リソースの消費が抑えられるのである。
 審判部は、このような壊れた連鎖を、全体として要求される技術的効果の証拠として受け入れることはできない。このような連鎖論が説得力を持つためには、それぞれのリンクが技術的なものでなければならないように思われる。したがって、出願人は、レイアウトがユーザーに心理的効果をもたらし、ユーザーがコンピュータに技術的効果をもたらすという、改善されたレイアウトによる付加的な技術的効果があることを立証していない。このことは、レイアウトがコンピュータに技術的効果をもたらすということと同じではない。

(コメント)
 審判部は、壊れた連鎖という言い方をしているが、言いたいことはレイアウトの工夫によりユーザがデータの入力手順を理解しやすくなるということと、リソースの消費が抑えられること(技術的な効果)とはリンクしていないということと思われる。確かに出願人の三段論法のような主張は強引という印象であり、これを認めると多くのUIは同じ論法で技術的効果が認められることになってしまうだろう。
 日本ではこうしたタイプの出願も結構あるので、どういう対策を取っていくべきか検討が必要である。他の事例もみていきたい。




2022年11月26日土曜日

[EP]UIは技術的事項か(T0077/14)

 タッチスクリーン画像スクロールの特許についての2015年の審決である。特許で規定している動きは、審決が下記のようにまとめている。表中にlong touchとshort touchがあるが、long touchは、t1より長くt2より短い時間のタッチ、short touchは、t1より短いタッチである。


c 画面にタッチして指を移動し、離す動き → スクロール開始
d,f スクロール開始後に画面タッチまたはスクロール停止 → スクロール停止
e スクロール開始後にタッチなし → 徐々に減速
g 画面にタッチし、動きがありから動きなしとなり指を離す → 待機
h 画面にタッチし、動きなく指を離す → アイテムの選択

 最も近い先行文献D7には、構成d~fが開示されている。

 原審では、「特徴的な機能は、相乗的な技術的効果をもたらすものではなく、本発明にとって不可欠な実際のデータスクロールの手順そのものに関するものではなく、むしろ、「ある方向と速度でデータスクロールするコマンドとスクロールを停止するコマンドを起動するという『意味を帰属』させる(マッピング)ためのジェスチャーの選択」という問題に関するものである。」とし、相違点に係る構成は、技術的ではないと判断された。

 審決は、次のように、客観的技術的課題を認定した。

「特に最も重要なことは、タッチスクリーン装置の3つの異なるスクロール関連機能、すなわちスクロールの開始(特徴cに関連)、スクロールの中断(特徴gによる「待機」状態に対応)、データアイテムの選択(特徴hに関連)を実装レベルで適切に認識し区別することを実際に可能にすることである。) これは、特に、異なる時間間隔(すなわち、独立請求項の特徴cおよびgに関するt1<Δt<t2または特徴h)に関するΔt<t2)の観点から、タッチ接触持続時間を含む物理パラメータを追加することによって達成される。・・・審判部は、それによって、明確な順序(シーケンスセンシティブ)タッチイベントの数および実現可能なジェスチャーベースの機能の数を大幅に拡張することができると考える。」

「以上のことから、本独立請求項1及び10が解決しようとする客観的技術課題は、"D7に示されるようなタッチパネル装置におけるスクロールベースのデータリスト検索の文脈において、認識可能なジェスチャーベースの機能の数をいかに拡張するか "として定式化することが可能である。」
 
 その上で、時間に関する閾値を検出する実装することは自明であるとしつつも、それだけでは、D7から対象発明に想到しないと判断した。

「むしろ、特徴cによるジェスチャーに基づくスクロールの開始を定義し適用するための所定の時間間隔の追加の検出、および特徴gとhによるスクロール操作に直接または間接的に関連する追加のジェスチャーと機能のマッピングを実際に組み込むことは、異なるジェスチャーとその結果の機能の間の単なる差別化を概念的なレベルで可能にすることを超えていると判断する。
 特に、D7とD5には、検出可能なタッチイベントの組み合わせの数、つまり実現可能なジェスチャーベースの出力機能の幅を著しく拡大するような明確な奨励は一切ない。また、すでに関与している物理的なタッチ検出パラメータに加え、明確なタッチ持続時間間隔を活用するための指針もない。このことは、D10で定義された標準化されたユーザビリティ原則に照らしても同様である。検出すべき物理パラメータの数を拡張することによって生じる実装の複雑さ及び困難さ(例えば、ジェスチャー認識速度、衝突解決、較正、ノイズ耐性に関する)の増加を考慮すると、特にD7の出版時(すなわち1998年)には、当業者はむしろ請求された解決策から遠ざかるだろうと審判部は考える。したがって、D7から出発し、請求項1に対する補正を考慮すると、その特徴的な機能は、タッチスクリーンインターフェース設計の分野の当業者が、状況に応じて、本願発明の後知恵の恩恵を受けずに、本願優先日において必然的に選択するであろう直接的な実施策とは考えられない。」

[コメント]
 本件発明は、タッチ画面のスクロールに関して、この場合はスクロール開始、この場合はスクロール停止ということを規定しているにすぎないので、技術的ではないという気がするが、最も近い先行文献D7との差分として、タッチしている時間間隔というファクターが入っているので、その部分を技術的事項として拾い上げた事例と整理することができる。ここを技術的事項と捉えることができるように技術的課題を設定しているような印象はある。
 なお、審決の最後のところ、阻害事由を述べているが、この基準が本願優先日ではなく先行文献D7の出版時であるところは、これで合っているのだろうか?

2022年11月16日水曜日

[商標]記述的商標の識別力(商標法3条1項3号)

  商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は登録を受けることができない(商標法3条1項3号)。どういう場合がこれに該当するのか、今年の拒絶査定不服審判の審決を調べてみた。商標が図柄を含んでいる場合は、「普通に用いられる方法」ではないので、基本的には文字だけの商標を想定している。

 「赤もも肉」(31類 愛玩動物用飼料)
 「チャットボット型LP」(35類 広告業等、41類 販売に関する知識の教授等)
 「超加湿」(5類 薬剤等、11類 便所ユニット等)
 「フランチャイズEXPO」(35類 広告業等、
               41類 技芸・スポーツ又は知識の教授等)

 これらは、商品役務の品質等を表示する商標だと思われますか?
 審決で3条1項3号に該当すると判断されたのは「チャットボット型LP」だけで、他の3つは3条1項3号に該当しないとされています。とても難しい。

 記述的商標かどうかは、次のように判断するのがよいと思われる。

(ステップ1) 商標は造語かどうか?
 商標が造語でない場合、それが指定商品・役務との関係がある言葉なら、記述的と判断される。造語でないというのは、例えば、辞書に載っている言葉であり、これが識別力がないのは当たり前といえば当たり前である。

(ステップ2) 造語は、全くの新しい言葉か、既存の言葉の組合せか?
 全くの新しい言葉の場合には記述的商標ではない。
 既存の言葉の組み合わせからなる造語の場合には、次のステップへ。

(ステップ3) 商標は不特定多数の者に使われているか?
 不特定多数の者に使われている場合には、3条1項3号に該当すると判断される。独占適応性がないからである。例えば、ウェブ検索により、その商標そのものが多数ヒットする場合には、だいたい拒絶される。
 逆に、不特定多数の者に使われていない場合、つまりウェブ検索してもその商標そのものが出てこない場合には、3条1項3号に該当しないと判断される場合が多いように感じる。登録審決の決めゼリフは、「職権をもって調査するも、〇〇が使用されている事実は見つからなかった。」というものである。
 しかし、当該商標そのものが使用されていない場合にも、拒絶される場合があるので注意すべきである。この判断が次のステップである。

(ステップ4) 拒絶パターンに該当しないか?
 ここが一番難しいところである。
 以下は、審決を見ていて気が付いたパターンであり、例示列挙である。他にも拒絶パターンがあると思うので、下記に該当しないからOKというわけではない(ので上記のフローでは点線にしている)。

a.類似の使用例がある場合
 例.「発酵だしシリーズ」(不服2021-010404)
 一の製造者の製造に係る複数のだし汁又はだしの素の商品群や,用途等を同じくする複 数のだし汁又はだしの素の商品群を総称して「○○だしシリーズ」と称している例が認められる(別掲2)。
 
 例.「トレペファイル」(不服2021-005021)
 「文房具類」を取り扱う業界において、別掲2のとおり、「トレーシングペーパーで作成した付箋」を「トレペ付箋」、「トレーシングペーパーで作成した封筒」を「トレペ封筒」、また「トレーシングペーパーで作成したメモ帳」を「トレペメモ帳」等のように、「トレーシングペーパーで作成した商品」を「トレペ○○」(「○○」には商品名が入る。)と表示して、実際に取引されている事実があることが認められる。

 例.「糀ジェラート」(不服2021-002697)
   ア  塩糀,米糀,甘糀(甘酒)等を使用した食品について,その原材料である糀に着目し,単に「糀(麹,こうじ)」と称し,商品名に冠したり,商品の説明に用いたりする場合があることは,原審で示した拒絶査定の別掲(6)ないし(16)(別掲)に加え,以下の情報からも確認することができる。

 他に、「顧問助産師」「ビジネス実務与信管理検定試験」「幸町歯科口腔外科医院」

b.薬剤の効能に関連する記載
 例.「汗ムレ湿疹」(不服2021-006271)
  薬剤業界において、「汗ムレ」が、肌トラブルの原因であるとする表示や「汗ムレ」による肌トラブルの治療薬の効能・効果として「湿疹」が表示されている実情からすれば、「汗ムレ湿疹」の文字は、上記(1)のとおり、「汗ムレ」という原因を表す文字と「湿疹」という症状を表す文字を単に一連に表示したものと認識、理解されるとみるのが自然であり、・・・本願商標をその指定商品中の「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」に使用したときは、「汗ムレ(蒸れ)による湿疹に効く薬剤」の意味合い、すなわち、商品の品質を表示するものと容易に認識されるものである。

 他に、「汗ムレかゆみ」「更年期むくみ」

c.使用の実情からの商標の理解
 例.「バルーンダイエット」(不服2021-004437)
   そして、本願の指定商品は、第28類「風船」であるところ、原審の拒絶理由通知書で示した事例(別掲2)や当審の審尋で示した事例(別掲1)があるように、風船を膨らます等の手段によって取り組むダイエット(風船を使用するダイエット)が「風船ダイエット」と称され行われ、当該ダイエットに風船が使用されている実情が認められる。
 そうすると、「バルーンダイエット」の文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「風船ダイエット」又は「風船を使用するダイエット」の意味合いを理解させるものであるから、これをその指定商品(風船)に使用しても、当該商品が「ダイエットに使用する風船」であること、すなわち、商品の用途、品質を表示したものとして認識させるにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないというのが相当である。

 例.「産業セキュリティ構築」(不服2021-002281)
   そして、原審の拒絶理由通知書及び拒絶査定で示した事例(別掲2)の他、別掲1の2及び別掲1の3のインターネット情報によれば、本願の指定役務の業界において、「産業セキュリティ」の文字が、例えば「産業界における(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティ」や「産業用(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等)のセキュリティ」など提供する役務の対象を示すものとして、また、「セキュリティ構築」の文字が、例えば「(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティを構築する」など提供する役務の内容を表すものとして、それぞれ使用されていることが認められる。
  上記を踏まえると、「産業」、「セキュリティ」、「構築」の各文字を組み合わせた「産業セキュリティ構築」の文字は、本願の指定役務との関係において、「産業界における(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティの構築」や「産業用(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等)のセキュリティの構築」程の意味合いを表すものであることを取引者、需要者に、認識させるにとどまるものというのが相当である。
 

2022年11月10日木曜日

「欧州におけるコンピュータ実装発明」(パテント2021年2月号より)

 欧州におけるコンピュータ実装発明(CII)の特許適格性や進歩性についての論文である。特許適格性のハードルが非常に低いことや、技術的特徴と非技術的特徴の両方を含む混合型クレームの判断の仕方については、おなじみの話のように感じた。
 
 個人的には、この論文での学びは、進歩性をクリアするためには、非技術的な課題を明細書に書くべきではないということであった。そのこころは、「明細書が技術的効果と非技術的効果を潜在的に進歩性を備える構成に関連付けている場合、非技術的効果はこの潜在的に進歩性を備える構成を非技術的にする。簡単に言えば、非技術的効果は技術的効果を打ち負かす。」ということである。
 どうしても非技術的効果に言及したい場合には、出願の全体的な背景に関連させて非技術的効果について漠然と言及する、あるいは、進歩性の議論に用いることができない既知の構成に関連させて非技術的効果に言及する、ということが考えられるそうである。
 
 ソフトウェア関連発明の場合、最終的には、非技術的効果を狙ったものも多く、日本の明細書では、普通に効果として記載しているように思う。しかし、欧州では、それを正直に書いてしまうと厳しいようなので、欧州向けには明細書を変える必要があるのかもしれない。
 
 

 

2022年10月21日金曜日

「AI関連発明の権利行使に関する留意点の検討について」(パテント2022年9月号より)

 昨今のAI関連発明の特許件数増加に伴い、 AI関連発明の権利行使については注視すべき論点である。
 タイトルに記載した論文は、令和3年度特許委員会第3部会第1チームによるものである。この論文では、権利行使しやすいAI関連発明の請求項とはどのようなものか、という仮説をたて、仮想登録例、仮想裁判例、審査基準の事例をもとに、仮説の検証・考察を行っている。仮説は、権利行使しやすいAI関連発明の請求項とは、次の2つの要件を満たす請求項である。
1.内部の処理を請求項中に書かない。
2.入力と出力の関係を規定した請求項を書く。

 仮説の検証・考察は、仮想登録例だと権利行使できそうかの検討、仮想裁判例の検討と請求項の変更案の検討、審査基準の事例をどのように改善すれば権利行使できそうかの検討、のアプローチで構成されている。

 この論文では、仮説に沿った請求項を作るためのアイデアとして、次のような方法が提案されている。

・学習アルゴリズムを特定しないために、「ニューラルネットワーク」のような用語は使わず、「学習済みモデル」等とする。
→これは基本だと思うので、ぜひ実践すべき。

・学習工程と算出工程とを含む場合、学習工程を削除し、算出工程に学習工程に関する記載を含める。
→算出工程に学習工程を含めた場合、そうした学習を経て生成された学習済みモデルで算出する、という要件になり、結局のところ学習工程も問題になるので、立証が容易になるのかは疑問である。ただし、学習工程を行う者と算出工程を行う者が異なる場合には、算出工程を行う者に対して直接侵害を訴えることができるという効果はあると思う。

・機械学習が教師あり学習に限定されないように、教師データとして出力データを特定しない。
→確かに、入出力の両方を教師データとすると教師なし学習は外れてしまう。もし、教師あり学習で発明提案を受けたとしても、教師なし学習が可能で、入力データだけで特徴が出せるなら、出力データを特定しないことは検討に値する。

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...