商品の品質等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は登録を受けることができない(商標法3条1項3号)。どういう場合がこれに該当するのか、今年の拒絶査定不服審判の審決を調べてみた。商標が図柄を含んでいる場合は、「普通に用いられる方法」ではないので、基本的には文字だけの商標を想定している。
「赤もも肉」(31類 愛玩動物用飼料)
「チャットボット型LP」(35類 広告業等、41類 販売に関する知識の教授等)
「超加湿」(5類 薬剤等、11類 便所ユニット等)
「フランチャイズEXPO」(35類 広告業等、
41類 技芸・スポーツ又は知識の教授等)
これらは、商品役務の品質等を表示する商標だと思われますか?
審決で3条1項3号に該当すると判断されたのは「チャットボット型LP」だけで、他の3つは3条1項3号に該当しないとされています。とても難しい。
記述的商標かどうかは、次のように判断するのがよいと思われる。
(ステップ1) 商標は造語かどうか?
商標が造語でない場合、それが指定商品・役務との関係がある言葉なら、記述的と判断される。造語でないというのは、例えば、辞書に載っている言葉であり、これが識別力がないのは当たり前といえば当たり前である。
(ステップ2) 造語は、全くの新しい言葉か、既存の言葉の組合せか?
全くの新しい言葉の場合には記述的商標ではない。
既存の言葉の組み合わせからなる造語の場合には、次のステップへ。
(ステップ3) 商標は不特定多数の者に使われているか?
不特定多数の者に使われている場合には、3条1項3号に該当すると判断される。独占適応性がないからである。例えば、ウェブ検索により、その商標そのものが多数ヒットする場合には、だいたい拒絶される。
逆に、不特定多数の者に使われていない場合、つまりウェブ検索してもその商標そのものが出てこない場合には、3条1項3号に該当しないと判断される場合が多いように感じる。登録審決の決めゼリフは、「職権をもって調査するも、〇〇が使用されている事実は見つからなかった。」というものである。
しかし、当該商標そのものが使用されていない場合にも、拒絶される場合があるので注意すべきである。この判断が次のステップである。
(ステップ4) 拒絶パターンに該当しないか?
ここが一番難しいところである。
以下は、審決を見ていて気が付いたパターンであり、例示列挙である。他にも拒絶パターンがあると思うので、下記に該当しないからOKというわけではない(ので上記のフローでは点線にしている)。
a.類似の使用例がある場合
例.「発酵だしシリーズ」(不服2021-010404)
一の製造者の製造に係る複数のだし汁又はだしの素の商品群や,用途等を同じくする複 数のだし汁又はだしの素の商品群を総称して「○○だしシリーズ」と称している例が認められる(別掲2)。
例.「トレペファイル」(不服2021-005021)
「文房具類」を取り扱う業界において、別掲2のとおり、「トレーシングペーパーで作成した付箋」を「トレペ付箋」、「トレーシングペーパーで作成した封筒」を「トレペ封筒」、また「トレーシングペーパーで作成したメモ帳」を「トレペメモ帳」等のように、「トレーシングペーパーで作成した商品」を「トレペ○○」(「○○」には商品名が入る。)と表示して、実際に取引されている事実があることが認められる。
例.「糀ジェラート」(不服2021-002697)
ア 塩糀,米糀,甘糀(甘酒)等を使用した食品について,その原材料である糀に着目し,単に「糀(麹,こうじ)」と称し,商品名に冠したり,商品の説明に用いたりする場合があることは,原審で示した拒絶査定の別掲(6)ないし(16)(別掲)に加え,以下の情報からも確認することができる。
他に、「顧問助産師」「ビジネス実務与信管理検定試験」「幸町歯科口腔外科医院」
b.薬剤の効能に関連する記載
例.「汗ムレ湿疹」(不服2021-006271)
薬剤業界において、「汗ムレ」が、肌トラブルの原因であるとする表示や「汗ムレ」による肌トラブルの治療薬の効能・効果として「湿疹」が表示されている実情からすれば、「汗ムレ湿疹」の文字は、上記(1)のとおり、「汗ムレ」という原因を表す文字と「湿疹」という症状を表す文字を単に一連に表示したものと認識、理解されるとみるのが自然であり、・・・本願商標をその指定商品中の「薬剤(農薬に当たるものを除く。)」に使用したときは、「汗ムレ(蒸れ)による湿疹に効く薬剤」の意味合い、すなわち、商品の品質を表示するものと容易に認識されるものである。
他に、「汗ムレかゆみ」「更年期むくみ」
c.使用の実情からの商標の理解
例.「バルーンダイエット」(不服2021-004437)
そして、本願の指定商品は、第28類「風船」であるところ、原審の拒絶理由通知書で示した事例(別掲2)や当審の審尋で示した事例(別掲1)があるように、風船を膨らます等の手段によって取り組むダイエット(風船を使用するダイエット)が「風船ダイエット」と称され行われ、当該ダイエットに風船が使用されている実情が認められる。
そうすると、「バルーンダイエット」の文字からなる本願商標は、これに接する取引者、需要者に、「風船ダイエット」又は「風船を使用するダイエット」の意味合いを理解させるものであるから、これをその指定商品(風船)に使用しても、当該商品が「ダイエットに使用する風船」であること、すなわち、商品の用途、品質を表示したものとして認識させるにとどまり、自他商品の識別標識としては認識し得ないというのが相当である。
例.「産業セキュリティ構築」(不服2021-002281)
そして、原審の拒絶理由通知書及び拒絶査定で示した事例(別掲2)の他、別掲1の2及び別掲1の3のインターネット情報によれば、本願の指定役務の業界において、「産業セキュリティ」の文字が、例えば「産業界における(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティ」や「産業用(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等)のセキュリティ」など提供する役務の対象を示すものとして、また、「セキュリティ構築」の文字が、例えば「(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティを構築する」など提供する役務の内容を表すものとして、それぞれ使用されていることが認められる。
上記を踏まえると、「産業」、「セキュリティ」、「構築」の各文字を組み合わせた「産業セキュリティ構築」の文字は、本願の指定役務との関係において、「産業界における(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等の)セキュリティの構築」や「産業用(コンピュータやそのソフトウェア、そのネットワークシステム等)のセキュリティの構築」程の意味合いを表すものであることを取引者、需要者に、認識させるにとどまるものというのが相当である。
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