2023年4月1日土曜日

[裁判例]対戦ゲームサーバ 新規事項の追加(知財高裁令和4年(行ケ)10092)

 拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟である。発明は、対戦ゲームサーバのプログラムであり、ユーザどうしをマッチングさせるときに、不適切な強さの対戦相手との対戦が行われることを防ぐことを目的としている。
 争点は、出願人が行った補正が新規事項の追加にあたり、不適法であるかという点である。

 補正後の請求項1は下記である。下線は補正箇所を示す。
【請求項1】 
 複数の通信端末に対して一ユーザ対一ユーザの対戦ゲームを提供するコンピュータに、 
 前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づけて管理するステップと、 
 前記ユーザ情報に応じて、数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さの下限値及び上限値により定められた強さの各段階のうち、前記ユーザがいずれの強さの段階であるかを決定するステップと、
 前記ユーザから対戦要求を受けた場合、前記識別情報に対応付けられたユーザ情報に応じた強さの段階に基づき、当該強さの段階から所定範囲内の同じ強さまたは異なる強さの段階の他のユーザとの対戦を開始するステップと、を実行させ、 
 前記対戦を開始するステップは、
 前記下限値及び上限値により定められた強さの段階毎に設定された対戦相手の強さの段階の上限および下限、ならびに、当該対戦相手の強さの段階の上限および下限内に含まれる弱者の割合および/または強者の割合に基づいて、自動的に対戦相手候補であるユーザを抽出し、当該対戦相手候補であるユーザの中から前記ユーザによって決定された他のユーザとの対戦を開始することを特徴とするプログラム。
 
 このように出願人は、「強さ」の説明として、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」を加えた。
 明細書には、強さを上のように直接に説明した文章はなく、発明の課題として、「特にユーザが初心者であって、攻撃力及び防御力の合計値が低い場合、対戦相手に係る攻撃力及び防御力の合計値の方が高くなる可能性が高く、対戦ゲームで負けてしまうことが多くゲームに対するユーザの興味を著しく低下させてしまっていた。」(段落【0005】)との記載があるほか、実施の形態も「ユーザが保有するユニットの攻撃力及び防御力」を例として説明がなされていた。

 このことから、審決は、強さとは、「攻撃力及び防御力の合計値」であると解し、これを「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」と補正することは、新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものではないと判断した。

[裁判所の判断]
 そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第2の2⑵イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。 
 上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項にすぎないと認められる。 
 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反するものではないというべきである。 

(コメント)
 上記の補正は、次の明確性要件違反に対応したものである。
「請求項1、7、8及び請求項1を引用する請求項2から6に係る発明の「強さ」には、攻撃力及び防御力の合計値のみならず、対戦ゲームの技術常識を勘案すると、必殺技等も包含される。
 ここで、例えば、必殺技は、数値化できないところからすると、「強さの下限値及び上限値」といっても数値化できないものに対して「下限値及び上限値」とは、何を特定しようとしているのか不明である。
 さらに、上述するような数値化できない「強さの下限値及び上限値」により定められた「強さの各段階」とは何を特定しようとしているのか不明である。
 よって、請求項1~8に係る発明は明確でない。」

 判決によれば、強さには、必殺技のように数値化できないものも含まれる。数値化できないのに、「強さの各段階」とはどう特定するのか、という点は明確になったのだろうか。
 特許庁の明確性の主張に対し、判決は、次のように述べるが、強さに何が含まれるのかは想定し得るとしても、その段階については明示していないように思われる。(特許庁が「強さの各段階」について主張しなかったのかもしれない)

[裁判所の判断]
 しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザの強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのようなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認される。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていないとしても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。

2023年3月7日火曜日

[裁判例]証拠の記載を上位概念化して認定することは許されないとした例(令和4年(行ケ)10012等)

 特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟である。対象特許は、以前、個人発明家がアップルから損害賠償をとったことで話題になったクリックホイールの特許である。なお、特許の存続期間は切れており、すでに権利は消滅している。
 対象特許の請求項は次のとおりである。

【請求項1】
A 指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され、前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段と、 
B 接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し、 
C 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って、前記プッシュスイッチ手段の接点が、前記連続して配置されるタッチ位置検出センサーとは別個に配置されているとともに、前記接点のオンまたはオフの状態が、前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されており、かつ、 
D 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により、前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる 
E ことを特徴とする接触操作型入力装置。


 要するに、リング状のタッチ位置検知手段83があり、タッチ位置検知手段83の軌跡上で押下すると接点がオンになるプッシュスイッチ手段84(上図では4つ)があるというものである。
 
 主引例は3つあるが、ここでは甲1を取り上げる。
 甲1発明は、テープ駆動系に対する制御信号を発生すべく操作される制御手段に適用される、タッチパネルを利用した制御信号供給装置の発明である。従来は、検出領域が直線的に配列されたタッチパネルを備えていたが、これだと、タッチパネルの一端から他端への操作戻り時間がとられるという課題があったので、甲1発明は、円環状に配列された複数の接触操作検出区分を設けたタッチパネルを採用した。


 本件特許と甲1発明との相違点は、甲1発明がプッシュスイッチ手段を有していない点である。
 この相違点を埋めるべく、原告は、周知技術を示す多数の証拠を提出し、甲1発明と周知技術との組み合わせを主張した。

[裁判所の判断]
  以上によれば、甲4文献ないし甲9文献から、接触点を一次元又は二次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段(タッチパネル)の下にプッシュスイッチ手段を配置した構造を、周知技術として認定することができる。 
 原告らは、前記第3の1⑴ア のとおり、甲4文献ないし甲9文献から認定される周知技術について、「接触点を一次元又は二次元座標上の位置データとして検出する」との認定は不要なものである旨主張するが、周知技術1が、接触点を一次元(甲8文献)又は二次元(甲4文献ないし甲7文献及び甲9文献)座標上の位置データとして検出するものであることは事実であり、この点をことさら認定からはずすべき理由はない(いずれにしても、この点は本件結論を左右しない。)。したがって、原告らの上記主張は採用できない。
・・・
  磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチパネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 
  結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするものであり、相当でない。 

(コメント)
 原告の主張は、タッチ位置検知手段の下にプッシュスイッチ手段を配置した構造は周知だから、甲1発明に組み合わせることは容易であるというものである。これに対し、裁判所は、周知技術のタッチ位置検知手段は、位置データを検出するタッチ位置検知手段であると認定した上で、位置データを検出するタッチ位置検知手段を甲1発明に適用することは容易ではないとした。上位概念化した技術は「実質的に異なる技術」であると言っているところは興味深い。
 証拠の記載からどの粒度で技術思想を抽出するかは評価という側面がある。許容される上位概念化もあるはずであり、どのような上位概念化が「実質的に異なる技術」なのかは、判断が非常に難しい。裁判所は括弧書きで「いずれにしても、この点は本件結論を左右しない。」とも述べるので、その判示を以下に抜粋する。下記の判断も手伝って、上のような認定をしたとも考えられる。

[裁判所の判断]
 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネルにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載されているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定する操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。 

(2023/3/15追記)
原告の主張に対して、裁判所は次のように判示している。
[裁判所の判断]
しかし、原告らの主張は、前記において説示した、甲1発明において選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはならないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。したがって、原告らの上記主張は採用できない。

 周知技術においてははタッチパネルとプッシュスイッチに機能的又は作用的関連があるため、これらを切り離して引用発明を認定してはいけないということである。
 

 

2023年2月13日月曜日

[調査]検索式の作成

 無効資料調査の検索式の作成について。
 正解があるわけではないように思う。今後も試行錯誤は続くが、いま考えるやり方を備忘の意味を込めてメモしておきたい。

 以前にも書いたが、すべてを網羅することはできない。例えば、20年分の文献を調査しようとすると、ざっと600~700万件の公報がある。このうち99%は無関係と言えるとしても残りは6~7万件。とても見きれる量ではない。そもそも調査対象を20年分としたり、その99%を外している点で網羅していないともいえる。
 無効資料調査の場合には、1件でも無効資料があればよいのだから、ありそうなところを見ていくのが、限られた時間で資料を発見する確率を高めると考える。
 
 「Aにおいて、Bに基づいてCする」ことを特徴とする発明を探すとする。
この場合、「Bに基づいてCする」という部分が特徴であり、「Aにおいて」は前提事項である。次のようなイメージで検索式を立てる。



 縦軸は特徴を表す表現の切り口、横軸は前提事項の切り口で、所望の文献は交差する部分にある。特徴部分はピンポイントで狙う。前提事項は、特徴部分の切り口で求めた集合からノイズを除去するという位置づけと考え、広めに設定する。
 以上のことから、検索式のクエリを考えると、次のようにすることが多い。
(特徴部分)
 ・要約のキーワード検索
 ・クレームのキーワードでの近傍検索
 ・全文のキーワードでの近傍検索
 
(前提事項)
 ・要約、クレーム、全文のキーワード
 ・FI

 次に、特徴部分の検索の例について。
「Bに基づいてCする」という技術思想を明細書で記載するとすると、どういう表現になるか。「Bに基づいてCする」「Bに応じてCする」「Bを用いてCする」等の他、「Cを行うためにBを用いる」も考えられる。また、「B」「C」の部分にはもちろん、「B」「C」のみならずその同義語も考えられる。
 近傍検索を使って、
「B」<1w>「基づ+応じて+を用いて」<5w>「C」 ・・・(式1)
というような感じになるかと思う。
 ここで、<1w>は両側にある文字が1ワード以内であることを意図している。
 少し広げるなら、
「B」<10w>「C」+ 「C」<10w>「B」  ・・・(式2)
のようにすれば、間に入る言葉が「基づく」等以外にも対応できる。

 注意が必要なのは、色々なバリエーションが考えられるからと気にしすぎると、関係ないものがたくさん入ってきてしまい何を探しているのか分からなくなってくる。
 ただし、現実には、(式1)のタイプの式をたくさん作るのは結構難しく、(式1)のタイプだけだと件数がヒットしないということもある。他人が書いた明細書の表現をすべて想定できるとも思えないので、そもそもの件数が小さい場合には、ある程度、しらみつぶし的な検索式を入れていく場合もある。
 

2023年2月6日月曜日

[裁判例]着信者主導による通信方法(令和4年(行ケ)10013号)

 拒絶審決に対する審決取消訴訟である。裁判所は、結論としては、拒絶審決の結論を支持したが、その理由の中で審決の要旨認定が誤りであると判示した。
 出願に係る発明は、以下のとおりである。いつもなら概要を記載するのだが、この発明は、何を言わんとしているのかよくわからなかったため、単に引用した。

 【請求項1】 
 コンピュータによって実行される方法であって、 
 サービスの要求を受けるステップと、 
 前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、 
 前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、 
 前記認証情報が物品から取得される情報であり、 
 前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、 方法。

 問題となったのは、「指示情報」(下線部)の解釈であり、審決は、次のように解釈した。
(審決の解釈)
ア 本願発明の「指示情報」は、本願明細書記載の「指示ファイル」の情報に対応するものであり、具体的な実施例としては、買い手の口座に対応する「指示ファイル」に設置(設定)した電子決済の「有効/無効フラグ」である(【0066】)。 

 審決は、上記の指示情報の解釈を前提として、本件発明と引用文献1との2つの相違点を認定し、それらの相違点について容易想到であるとした。

 これに対し、裁判所は次のように判断した。
(裁判所の解釈)
 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は、 「・・(省略。請求項1を引用。)・・」というものである。
 上記記載によれば、本願発明は、サービスの要求を受けるステップと、前記要求を処理するために「指示情報」を使用するステップと、を含むコンピュータによって実行される方法であり、本願発明の「指示情報」は、コンピュータがサービスの要求を処理するために使用する情報であって、利用者に提供する、物品から取得される認証情報に基づいて設定された情報であると解される。 
 そして、本願明細書には、本願発明の「指示情報」について定義した記載はもとより、「指示情報」の用語を明示的に用いた記載はなく、「指示情報」を特定の情報に限定する記載や特定の場所に保存された情報に限定する記載もないことに鑑みると、本願発明の「指示情報」は、上記のとおり、解釈するのが相当である。 

 上記したように、裁判所は、「指示情報」は、請求項に記載されているとおりに解釈するのが相当であると判示した。この解釈に基づき、以下のとおり、請求項1に記載された構成は引用文献1に実質的に記載されていると判断した。

(裁判所が行った対比)
 利用者が店舗において購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装置21は、携帯電話機1の表示部11に表示されたQR決裁証明鍵1201を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決裁承認要求として認証サーバ41に送信し、・・・携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のものであると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末22に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が行われていることを理解できる。 
・・・
 そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に相当するものと認められる。

(引用文献)
 引用文献1は、セキュアな認証と決済を提供する商取引方法の発明である。


 「指示情報」を請求項に記載のとおりに解釈した結果、携帯電話機から読み取った”携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報”は、「指示情報」に該当するとされた。
 携帯電話製造番号等は、審決が「指示情報」の具体例として挙げた、「電子決済の有効/無効フラグ」とは全く異なる。本件の出願人が携帯電話製造番号等までも「指示情報」として意図していたかどうかはわからないが、進歩性なしと判断された。
 新規性、進歩性の判断においては、発明の要旨認定は特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるとの考え方が表れた例といえる。

 
 

2023年1月30日月曜日

[裁判例]引用発明の本来的な要請に基づき組み合わせの容易性が認められた例(令和4年(行ケ)10039号)

 株式会社ぐるなびの拒絶査定不服審判の審決取消訴訟である。出願にかかる発明は、次のとおりである。ポイントとなる構成に下線を引いた。
【請求項1】
 一又は複数のプロセッサーが、 予約対象となる第1施設と一又は複数の予約内容とを含む初期予約条件の入力をユーザー端末から受け付け、 
 前記第1施設に対応する施設端末に前記予約内容を通知し、 
 前記施設端末からの返信を受け付けた場合に予約を成立させ又は返信内容を前記ユーザー端末に通知し、 
 前記予約内容が前記施設端末に通知された後、前記施設端末からの返信を有効に受け付ける期間として予め設定された待機期間内に前記施設端末からの返信がない場合に、前記施設端末からの返信受付を終了して、前記初期予約条件に基づいて前記第1施設を除く一又は複数の第2施設を抽出し、 
 前記抽出された一又は複数の前記第2施設の情報を前記ユーザー端末に通知する、 予約支援方法。


 ユーザが予約対象としている第1施設の施設端末から待期期間内に返信がない場合に、初期予約条件に基づいて複数の第2施設を抽出し提案する(図7)というシステムである。これにより、施設側は、早期に返信をしないとスキップされてしまうことから、対象特許が目的としている「施設側の早期の返信を促す」ことを実現する。

 主引例は、同じく施設の予約システムであるが、希望する施設の予約がNGであった場合に自動的に別候補の検索を行い、別候補を提供する発明であった。
 本願発明と主引例との違いは、本願発明では第2の候補の抽出を第1施設からの返信がない場合に行うのに対し、主引例では予約登録結果がNGだった場合に行う点である。
 副引例は、ホテルの仮予約に関する発明で、仮予約センタ端末が複数のホテル端末に対して順次、空き問い合わせを行い、宿泊が可なら仮予約を行うというものである。この発明では、空き問い合わせに対する宿泊可否の通知を一定時間経過しても行わなかった場合、ホテル端末に対してキャンセルの通知を行い、次のホテルに空き問い合わせを行う。これは相違点に係る構成である。
 
 本裁判の論点は、主引例と副引例とを組み合わせることが容易かどうかである。裁判所は次のように判断した。
(裁判所の判断)
「イ ところで、施設の予約は、利用日又は利用日時を指定して行うものであり、予定される利用日又は利用日時よりも前に予約を完了するという本来的な要請がある。そして、引用発明は、ある特定の施設の予約を目的とするものではなく、利用者の希望する条件に合致した複数の施設を対象とし、一つの施設の予約ができなかった場合に、別の施設の予約をすることが可能であるような施設予約システムにおける予約方法であるところ、・・・宿泊施設の予約担当者による判断の時期によっては、相当程度に遅くなる場合も想定され、その間に、当初の検索条件に合致する別候補の施設の予約枠が埋まってしまうこともある。 
 そうすると、引用発明には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるといえる。 
ウ 次に、前記2(2)イの引用文献2記載技術をみると、・・・甲2には、施設端末が、一定時間を経過しても予約可否の回答をしなかった場合には、キャンセルとして扱い(以下「タイムアウト処理」という。)、次の施設に問い合わせるという技術が開示されているといえる。そして、予定される利用日又は利用時間よりも前に、タイムアウト処理をして、次の施設に問合せをすることで、最初に問合せをした施設からの回答を待っていたために、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができなくなるという事態を回避するのに、一定の効果があると認められる。 
エ ところで、引用発明と引用文献2記載技術とは、複数の施設を対象とした施設予約システムにおける施設予約方法という共通の技術分野に属するものであって、第1施設に対して予約可否の問合せを行い、第1施設から予約不可の返信を受けた場合には第1施設に類似する他の施設を抽出するという手法も共通するところ、前記イのとおり、引用発明において、第1施設から予約可否の返信が長時間送信されない場合には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請を満たすことができないおそれがあるところ、上記本来的な要請を満たすために、第1施設からの予約可否の返信を長時間待ち続けるという事態を回避しようとすることは、当業者であれば当然に着想するものと認められるから、引用発明に引用文献2記載技術のタイムアウト処理を適用する動機付けがあるといえる。 」

(コメント)
 動機付けありとした判断のポイントは、施設予約には、予定される利用日又は利用日時よりも前に、利用者の希望する条件に合致した施設を予約するという本来的な要請があるところ、引用文献1では本来的な要請を満たすことができないおそれがあり、引用文献2ではそのおそれを回避する効果があるというものである。
 このロジックによれば、副引例が奏する効果、または解決する課題等が、本来的な要請に基づくもの(あるいは普遍的な課題を解決するもの等)と言ってしまえば、常に副引例を組み合わせる動機付けがあることになってしまう。判断が恣意的にならないようにするために、判断者は、本来的な要請があることを丁寧に示す必要がある。また、無効を主張する立場としては、当然そうした要請を示す必要があるであろう。







 

2023年1月20日金曜日

[裁判例]携帯情報通信装置事件(令和3年(行ケ)10139号)

 携帯端末に表示しきれない高解像度の画像を受信したときに外部の表示装置に表示させる携帯情報通信装置の発明についての無効審判の審決取消訴訟である。



 特許請求の範囲の記載はとても長いが、ポイントとなるのは次の構成要件である。下線及び①②は筆者が追加。

G’ 前記無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信してデジタル信号に変換の上、前記中央演算回路に送信し、前記中央演算回路が該デジタル信号を受信して、該デジタル信号が伝達する画像データを処理し、前記グラフィックコントローラが、該中央演算回路の処理結果に基づき、前記単一のVRAMに対してビットマップデータの書き込み/読み出しを行い、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段又は前記インターフェース手段に送信して、前記ディスプレイ手段又は前記外部ディスプレイ手段に画像を表示する機能(以下、「高解像度画像受信・処理・表示機能」と略記する)を有する、 携帯情報通信装置において、 
H’ 前記グラフィックコントローラは、前記携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、①前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度と同じ解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記ディスプレイ制御手段に送信する機能と、②前記単一のVRAMから「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフェース手段に送信する機能と、を実現し、

 G´で言っているのは、無線通信手段によって高解像度画像を受信し、処理し、表示する一連の機能があるということであり、H’で言っているのは、その一連の処理において、①携帯端末の備え付けのディスプレイパネルと同じ解像度の画像を読み出して表示する機能、②ディスプレイより高解像度の画像を読み出して外部ディスプレイ手段に表示させるためにインターフェース手段に送信する機能、の2つがあるということである。

 さて、主引例となった甲1発明は以下のとおりである。

(甲1発明)
「甲1発明は、内部表示装置における内部表示用の表示データを格納するための領域と、内部表示装置よりも高解像度の外部表示装置における外部表示用の表示データを格納するための領域を表示メモリに確保し、内部表示用の表示データを選択的に外部表示用の領域に格納することで、解像度の違いによる外部表示装置における表示領域を有効に利用することが可能となるという効果を奏する(【0104】)」



(周知技術)
「携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術は、周知技術であるといえる。」

(裁判所の判断)
「ア 甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについては、そもそも一切記載はない。もっとも、甲1文献の【0103】の「本装置を実現するコンピュータは、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、または通信媒体を介してプログラムを受信し、このプログラムによって動作が制御されることにより、上述した処理を実行する。」との記載に照らせば、無線を含む通信媒体を「プログラム」を「受信」するために利用することは示唆されているといえる。また、甲1文献の【0083】では、表示内容を上位のアプリケーションが処理することも記載されているから、甲1発明において、「無線通信手段」を設け、「無線通信手段」で受信した「画像データ」を処理して画像を表示するように構成することまでは、当業者が容易に想到し得たことということも可能と考えられる。 
 しかし、甲1文献には、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータに関する解像度の記載はなく、無線通信手段が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信して、この「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」についてディスプレイ制御手段やインターフェース手段に送信するデジタル表示信号を生成する具体的な構成については、何らの開示や示唆もない。そうすると、結局、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到することができたとはいえないというべきである。」

「しかし、前示のとおり、甲1文献には、「データ」や「プログラム」の受信に際して無線を利用することについて一切記載はないものの、この点については想到可能であるとしても、表示装置の解像度に関する記載はあっても、プログラムやデータの解像度に関する記載は一切なく、甲1発明の「画像データ」が「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」であることについて、何らの開示や示唆もない。 
 また、前記認定の周知技術も、携帯電話機において、携帯電話機のディスプレイによりそのままでは表示できないデータを外部の表示装置に表示する技術を開示するのにとどまり、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信するとの点や、グラフィックコントローラは、携帯情報通信装置が前記高解像度画像受信・処理・表示機能を実現する場合に、「前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい解像度を有する画像のビットマップデータ」を読み出し、「該読み出したビットマップデータを伝達するデジタル表示信号」を生成し、該デジタル表示信号を前記インターフ
ェース手段に送信する機能を実現するとの点まで具体的に示唆するものではないから、前記 認定の周知技術を加味しても、当業者が相違点4に係る構成を容易に想到できたとはいえないし、この点に係る構成が単なる設計事項であるということもできない。」

(コメント)
 甲1発明は、構成要件H’の①②を備えている。足りないのは、①②の処理が「前記高解像度画像受信・処理・表示機能(構成要件G)を実現する場合」の機能である点である。もう少し細かくいうと、甲1発明も画像の処理と表示はしているから、足りないのは、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」を伝達する無線信号を受信」する点である。
 携帯電話機の中に、「本来解像度が前記ディスプレイパネルの画面解像度より大きい画像データ」が入ってくる経路として、無線通信手段を介して入ってくることも当然あり得る話だと思うが、そのことを開示した文献が示されなかったため、進歩性が認められたと考えられる。

2023年1月9日月曜日

早期審査についてPart2

 以前、早期審査と特許査定率の関係について調べたが、今回は早期審査を経て登録になった特許と、通常(非早期)の審査で登録になった特許について、異議申立事件での取消率等に影響があるのかどうかを調べた。
 対象は、2014年1月以降に特許公報が発行された案件で、異議申立が終了している案件である。前も書いたが、データベースに、早期審査をした、という分類はなかったので、早期審査の事情説明書、早期審査に関する通知書、早期審査に関する報告書等のいずれかが出ていることをキーとして早期審査の特許に分類した。

 まず、早期審査で登録になった特許が全件の26.1%と、異議申立ての全件数に占める割合は非常に高かった。(前回調査によれば、登録件数に占める早期審査の割合は、6%程度にすぎない。)
 しかし、取消理由が通知される割合、訂正請求を出した割合、権利が取り消される割合については、早期審査で登録になった特許と非早期の審査で登録になった特許でほとんど違いがない。
 
 肌感覚としては、早期審査した案件の特許査定率の高さとも相俟って「よくこれで特許になったなあ」と思うものが多いような気がしたが、必ずしもそうではないのかもしれない。
 これまで、早期審査→特許査定率が高いと思っていたが、原因と結果が逆なのかもしれない。つまり、特許査定率が高いものが早期審査されている。
 早期審査の特許の方が異議申立てされる割合が高いのは、それだけ、重要性が高いと考えれば説明がつく。

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...