拒絶審決に対する審決取消訴訟である。裁判所は、結論としては、拒絶審決の結論を支持したが、その理由の中で審決の要旨認定が誤りであると判示した。
出願に係る発明は、以下のとおりである。いつもなら概要を記載するのだが、この発明は、何を言わんとしているのかよくわからなかったため、単に引用した。
【請求項1】
コンピュータによって実行される方法であって、
サービスの要求を受けるステップと、
前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、
前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、
前記認証情報が物品から取得される情報であり、
前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、 方法。
問題となったのは、「指示情報」(下線部)の解釈であり、審決は、次のように解釈した。
(審決の解釈)
ア 本願発明の「指示情報」は、本願明細書記載の「指示ファイル」の情報に対応するものであり、具体的な実施例としては、買い手の口座に対応する「指示ファイル」に設置(設定)した電子決済の「有効/無効フラグ」である(【0066】)。
審決は、上記の指示情報の解釈を前提として、本件発明と引用文献1との2つの相違点を認定し、それらの相違点について容易想到であるとした。
これに対し、裁判所は次のように判断した。
(裁判所の解釈)
本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は、 「・・(省略。請求項1を引用。)・・」というものである。
上記記載によれば、本願発明は、サービスの要求を受けるステップと、前記要求を処理するために「指示情報」を使用するステップと、を含むコンピュータによって実行される方法であり、本願発明の「指示情報」は、コンピュータがサービスの要求を処理するために使用する情報であって、利用者に提供する、物品から取得される認証情報に基づいて設定された情報であると解される。
そして、本願明細書には、本願発明の「指示情報」について定義した記載はもとより、「指示情報」の用語を明示的に用いた記載はなく、「指示情報」を特定の情報に限定する記載や特定の場所に保存された情報に限定する記載もないことに鑑みると、本願発明の「指示情報」は、上記のとおり、解釈するのが相当である。
上記したように、裁判所は、「指示情報」は、請求項に記載されているとおりに解釈するのが相当であると判示した。この解釈に基づき、以下のとおり、請求項1に記載された構成は引用文献1に実質的に記載されていると判断した。
(裁判所が行った対比)
利用者が店舗において購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装置21は、携帯電話機1の表示部11に表示されたQR決裁証明鍵1201を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決裁承認要求として認証サーバ41に送信し、・・・携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のものであると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末22に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が行われていることを理解できる。
・・・
そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に相当するものと認められる。
(引用文献)
引用文献1は、セキュアな認証と決済を提供する商取引方法の発明である。
「指示情報」を請求項に記載のとおりに解釈した結果、携帯電話機から読み取った”携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報”は、「指示情報」に該当するとされた。
携帯電話製造番号等は、審決が「指示情報」の具体例として挙げた、「電子決済の有効/無効フラグ」とは全く異なる。本件の出願人が携帯電話製造番号等までも「指示情報」として意図していたかどうかはわからないが、進歩性なしと判断された。
新規性、進歩性の判断においては、発明の要旨認定は特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるとの考え方が表れた例といえる。
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