本件は、入力支援コンピュータプログラムに関する特許を有するコアアプリが、シャープを訴えた裁判である。対象製品は、スマートホンAQUOS SERIE SHV32である。対象特許は、利用者が必要になった場合にすぐに操作コマンドのメニューを画面上に表示させ、必要である間にコマンドのメニューを表示させ続けられる手段を提供するものである。
対象製品は、ホーム画面に配置されたアイコンの場所を移動させるときに、対象のアイコンを長押しすることにより移動が可能になる。そして、アイコンを移動すると、画面は縮小モードとなり、上ページと下ページの画面の一部(上ページ一部表示、下ページ一部表示。下図において矢印で示す領域。)が表示される。
そして、アイコンを上ページ一部表示または下ページ一部表示の方へ移動させるとページが切り替わる(ページ切り替わりの判断領域と上ページ一部表示または下ページ一部表示の範囲とは一致していない)。
判決で判断された要件は、「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するための画像データである操作メニュー情報」である。上記した上ページ一部表示等が「操作メニュー情報」に該当するか否かである。
裁判所は、以下のとおり判示した。
「以上の本件発明3の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書の記載によれば,構成要件Bの「操作メニュー情報」は,「ポインタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表示され,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されていることを要するものと解される。 」
「 しかるところ,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表示」は,別紙「乙2の2の説明図」の図6等に示すように,「縮小モード」の状態で,IGZO液晶表示ディスプレイの画面上に表示される長方形状上の画像データであるが,その表示には「実行される命令結果」の内容を表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成されているものと認めることはできない。
また,利用者が,縮小モードの状態で,1つ上のページ又は1つ下のページの一部を表示した画像である「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表示」を見て,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表示」までドラッグすれば,上ページ又は下ページに画面をスクロールさせることができるものと考え,実際にそのように画面をスクロールさせる操作をしたとしても,それは,「上ページ一部表示」又は「下ページ一部表示」の表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解するのではなく,操作の経験を通じて,画面をスクロールさせることができることを認識するにすぎないものといえる。
したがって,被告製品の「上ページ一部表示」及び「下ページ一部表示」は,利用者がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構成された画像データであるものと認めることはできないから,構成要件Bの「操作メニュー情報」に該当しない。 」
このように上ページ一部表示等は、操作メニュー情報ではないとして、原告の主張が退けられた。請求項に「命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段に表示するため」とまで記載してしまっているので、裁判所の判断も頷ける。
面白いのは、本件の原審は、今回の高裁判決とは反対に、上ページ一部表示等が「操作メニュー情報」を充足すると判断している。その理由は、「その内容や表示位置からすれば,これを見た利用者は上ページ又は下ページにスクロールする結果を理解できるといえる」というものである。(なお、原審は、別の観点で非侵害の判断をした。)
利用者が理解できるかどうかという評価の話にフォーカスされているので、このように判断が割れたといえるが、個人的な感覚としては、そもそも、ページの一部は、「メニュー」なのだろうかという疑問はある。今回の判決は、「「実行される命令結果」の内容を表現し,又は連想させる文字や記号等は存在せず」と述べているが、これはメニューではないといいたかったのかもしれない。
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