2021年1月10日日曜日

[裁判例]ユーザ認証方法事件(平成29年(行ケ)10219号)

  本件は無効審判の審決に対する審決取消訴訟である。無効理由は29条の2であり、請求項1~7は無効、請求項8,9は有効と審決されたところ、審判請求人および特許権者の双方が、審決を不服として審決取消訴訟を提起した。

 対象は、パスワードの導出パターンの登録方法等に関する発明である。

 使用時のパスワードは、ランダムパスワードである。本件特許では、パスワード生成器の代わりに、ランダムな数字が記載された一覧表を提示し、その中からあらかじめ定めた位置にある数字を選択することでワンタイムパスワードを生成する。どの位置の数字を用いるかをあらかじめ登録しておく方法が対象特許の発明である。導出パターンは、例えば、下図において、“(0,0)-(1,2)-(2,1)-(3,2)”と表すことができる。


対象特許は、導出パターンを登録する方法である。ユーザに座標を指定して特定させるのではなく、登録したい位置に表示された数字を指定させることで登録を行わせる。




 先願にかかる発明も、登録されている位置に表示されたランダムパスワードを入力することにより、位置情報の登録をさせるものである。対象特許の請求項1~7と同一の発明であるという点を、特許権者は争っているが、同一であるという判断は妥当である。
 請求項8は、
「前記パスワード導出パターンが特定されたとき,前記特定されたパスワード導出パターンを含む登録確認画面を前記無線端末装置が表示して,これにより,前記パスワード導出パターンを登録するか又は前記表示及び入力を最初からやり直すかの選択を促す手段」
を備えたシステムの発明であるのに対し、先願に、パスワード導出パターンの登録確認を行うことが特定されていない。この構成が当該技術分野における周知慣用技術であるか否かが争点となった。
 原告は、パスワードの登録確認について多数の証拠を提出したが、原告が提出した証拠について以下のとおり判断した。

[裁判所の判断]
 甲16(特開平10-49596号公報)及び甲17(特開平11- 227267号公報)は,ユーザが入力したパスワードをそのまま表示 し,確認して登録するものである。 
 甲18(特開2000-353164号公報)には,入力したパスワードが入力枠に表示されることは記載されておらず,2回のパスワードの入力が一致した場合にパスワードを登録するものであって,表示によ り登録確認をするものではない。
 甲19(特開2001-92785号公報)には,パスワード認証装 置及びパスワード認証方法に関し,画面上を升目状に分割したグリッド をグリッドプレーンに配置し,認証用画像とグリッドプレーンを合成し たパスワード入力映像を表示し,グリッドの選択順序をパスワードとし 84 て設定するパスワード認証方法(【0030】ないし【0036】)が 記載され,パスワード登録画面には,パスワードの登録時に,グリッド を選択すると,選択されたグリッドが表示され,「パスワード入力終了」 ボタンを押すと,終了する(図3)ことが記載されている。しかし,甲19は,パスワードとしてグリッドの位置を登録する際に,登録するグリッドの位置を表示して確認するものではあるが,それ自体は公知技術にすぎず,甲19のみをもって,パスワード導出パターンを,ユーザによって選択された複数の位置とその選択順序を確認できるように表示することが周知技術であるとはいえない。そして,このような周知技術とはいえない単なる公知技術に基づいて,甲1の記載を補充して,特許法 29条の2の先願発明との同一性を判断することは相当でない。  
 甲2(平成19年3月8日付けQの宣誓供述書)の添付資料6(平成13年11月1日付けモバイルコネクトサービス操作説明書)及び甲7 (日経インターネットテクノロジー平成13年12月号)には,NTTコム社による甲1発明の実施においては,「Go!」,「やり直し」という,「パスワード導出パターンを登録するか,最初からやり直すか」を選択するためのボタンが示されている。 しかしながら,NTTコム社において公然実施された「Go!」ボタ ン,「やり直し」ボタンは,本件特許の出願前の公然実施発明であり周知技術とはいえず,このような周知技術とはいえない単なる公知技術に 基づいて先願明細書等の記載を補充して,特許法29条の2の先願発明との同一性の判断することは相当でない。 

 相違点にかかる構成として、特許公報(甲19)が1件と公然実施発明(甲2)が存在したが、周知慣用技術とは認められなかった。やや厳しい判断のようにも感じるが、周知慣用技術であることを示すためには、多数の証拠の積み重ねが必要であることが示された。

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