2023年4月25日火曜日

[米国]最近の裁判例

LESの米国問題WGのメモ。詳細は、後日発行されるLES JAPAN NEWSを参照。

Broadcom Corp. v. International Trade Commission (Fed. Cir. Mar. 8, 2022)

 国内産業要件を満たさないとしたITC決定を支持した判決。
 ITCでの差し止めが認められるためには、特許権者は、US国内で発明を実施している必要がある。
 Broadcom社のチップは、特許の構成要件の一部を満たしておらず、また、構成要件を充足する製品が製造されていることの証拠が不十分だったため、国内産業要件が認められなかった。


Lite-Netics, LLC v. Nu Tsai Capital LLC, DBA Holiday Bright Lights (Fed. Cir. February 17, 2023)

 LiteがHBL及びその顧客に特許権侵害しているとの通知を送ったことに対し、HBLが差し止めを求め、地裁は差し止めを認めたが、CAFCは地裁決定を覆した。
 CAFCは、過去の判例を引用し、「実際、特許権者は、その権利の性質と範囲に関する信念に基づいて善意で行動し、『それらの権利が何であるかを誤解している場合でも』、それらの権利を主張することを完全に許可されている。」と述べた。



2023年4月20日木曜日

[調査]AIを使った調査ツール

 世の中に AIを使った調査ツールが色々とあるが、何をどこまでできるのか。
 トライアルでいくつかのツールをちょっと触ってみただけの段階であるが、メモしておきたい。下記には筆者の推測が入っている。

[AI調査ツールのしくみ]
 AIを使った調査ツールでは、①特許番号を入れると内容の近い特許を検索する、②自然文を入れるとそれに近い内容の特許を検索する、③求めた集合について教師データとして指定した公報と近い順にソートする、ことができる。
 上記の3つは、インプット/アウトプットの仕様は若干異なるが、いずれも所定の文章に近い内容を記載した公報を探すことを基礎とするものである。具体的には、所定の文章と他の公報との類似度のスコアを求め、そのスコアに基づいて結果を出している。②では自然文をクエリとしており、①③は指定された特許内の文章をクエリとしているという違いである。
 検索のアルゴリズムは所定の文章と他の公報との類似度を求めるのであるが、おおざっぱにいうと、クエリと被調査対象の文章を特徴ベクトルで表し、特徴ベクトルどうしの類似度を求めるものと推測される。もちろん、特徴ベクトルへの変換の方法や類似度の計算方法には各社の特徴があるであろう。
 特徴ベクトルは、例えば、tf-idf(term frequency - inverse document frequency)みたいなものであり、所定の文章に頻出する用語は重要度が高いが、他の文章にも頻出する用語は重要度が低い(例えば「端末」はいくら頻出しても重要ではない)という基準で文章を評価するベクトルであると理解している。
 特徴ベクトルの類似度のスコアを計算する際には、同義語も考慮していると考えられる。

[AIでできること、できないこと]
 さて、AIの調査ツールが上記のアルゴリズムで動いているとした場合、AIで何ができるか。
 特徴ベクトルに変換した時点で、おそらく文章の文脈は失われる。文脈は見てないと明確に説明した会社もあった。したがって、AIといえども、文脈を含めた類似度を求めることはできない。つまり、AIでは、所望の発明と同一発明を開示した文献を見つけることまではできない。
 AIでできることは、特徴的な用語あるいはその同義語を同じような割合で含む文章を類似すると判断することである。類似する発明を記載した文献どうしの特徴ベクトルは高い確率で類似するものになると考えられるから、技術分野が同じあるいは近い発明群を見つけることは可能である。

[どう使うか]
 AI調査ツールの説明者からは、AIが何ができるかを理解して使うことが重要という趣旨の説明をもらった。まさにその通りだと思う。無効資料を一発で見つけることができないからAIは使えないということではなく、AIを使うことで調査業務の精度向上と効率化に役立てることができれば良い。
 これから、どういう使い方をすれば効率的な調査が可能になるのか試行錯誤してみたい。

 


2023年4月6日木曜日

[裁判例]ガス系消火設備事件(知財高裁 令和4年(行ケ)10009号)

 ガス系消火設備に関する発明の異議申立事件の取消決定に対する取消訴訟である。
 ガス系消火設備では、建物内の部屋に複数の容器内の消火剤ガスを導入して消火を行う。複数の容器からいっぺんにガスを供給すると部屋の圧力が高くなりすぎるので、それを防止するために、排気ダクトを太くしなくてはならない(=ガスを逃がす)。発明のポイントは、部屋の圧力が高くなりすぎないようにし、ひいては配管を細くするために、複数の容器の容器弁の開弁時期をずらして消火剤ガスのピーク圧力が重ならないようにしたことである。

【請求項1】 (下線は補正箇所)
 建物内でのダクトおよび配管を細くすることで施工コストを低下させ、かつ、設計の自由度を高めたガス系消火設備であって、 
 消火剤ガスが貯蔵された複数の容器と、 
 複数の前記容器内の消火剤ガスを、電子機器が設けられており消火のために水を用いることができない、前記建物に設けられる部屋である防護区画へ導入する前記配管により構成される導入手段と、 
 消火剤ガスが導入される前記防護区画の側面を貫通するように前記側面に接続されて前記防護区画から消火剤ガスを排出するための、前記建物内で縦および/または横方向に延びるダクトと、 
 前記防護区画の避圧口で前記ダクトの端部に設けられたダンパとを備え、 
 前記ダンパが開閉することで前記ダクトと前記防護区画とが連通および遮断され、 
 複数の前記容器のうちの一つの容器と別の容器との容器弁の開弁時期をずらして、前記一つの容器と前記別の容器とから放出される消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止して前記防護区画へ消火剤ガスが導入され、 
 前記一つの容器の容器弁の第一の開弁タイミングと、前記別の容器の容器弁の第二の開弁タイミングであって前記第一の開弁タイミングとは異なり消火剤ガスのピーク圧力が重なることを防止する前記第二の開弁タイミングとを決定し、前記各容器弁に接続される制御部をさらに備える、ガス系消火設備。

 主引例である甲1発明は、「不活性ガス消火設備設計・工事基準書〔第2版〕」の記載で、容器弁の開弁時期や、窒素ガスのピーク圧力が重なること等の記載はないが基本的な構成は記載されていた(下図)。


 副引例は、火災危険抑制システム10の発明である。ガスシリンダー12aと12bとの間の配管40に沿って配置されたラプチャーディスク16aと、ガスシリンダー12bと12cとの間の配管40に沿って配置されたラプチャーディスク16bの開放時間をずらすことで、シリンダー12aからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12bからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12cからのガスの供給を開始する時点とをずらした結果として、不活性ガスが、過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14に順次放出されることが記載されている。

 これらの証拠からすると甲1と甲2に基づいて本件特許が進歩性なしとした異議決定は妥当なように思える。しかし、裁判所は次のように判断した。

[裁判所の判断]
 甲2には、・・・火災危険抑制システム10において、・・・シリンダー12aからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12bからのガスの供給を開始する時点と、シリンダー12cからのガスの供給を開始する時点とをずらした結果として、不活性ガスが、過剰圧力がかからないように制御された速度で、保護された部屋14に順次放出されること。」)が記載されていることが認められる。 
 しかるところ、甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、配管等の内部のあらかじめ決められた圧力により動作(破裂)し、一旦動作(破裂)した後は再閉鎖されない、使い捨ての部材(甲21ないし23)であり、弁が繰り返し開閉する「容器弁」とは、動作及び機能が異なるものである。 
 そして、前記(2)の甲2の記載事項によれば、甲2には、①甲2記載の火災危険抑制システムは、複数(第1及び第2)のガスシリンダー間にラプチャーディスクを取り付け、第1のガスシリンダー内のガスが保護された部屋(密閉された部屋)に放出されて第1のガスシリンダー内の残存ガスのレベルが低下すると、第1及び第2のガスシリンダー間の圧力差で、ラプチャーディスクが破裂して第2のガスシリンダー内のガスが保護された部屋に放出され、このように複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスが放出されることによって、保護された部屋の過圧を防止できること(前記(2)エ、キ)、②保護された部屋の大きさ、ガスシリンダーの容積、及びその他の要因によって、必要に応じてより多くのガスシリンダー及びラプチャーディスクを使用して、閉鎖された部屋(保護された部屋)を適切に保護することができること(前記(2)オ、カ)の開示があることが認められる。 
 一方で、甲2には、バルブ(図2記載の第1のバルブ30、第2のバルブ34、第3のバルブ38)の開閉によりガスシリンダーから配管へのガス流を制御することの記載はあるものの、ラプチャーディスクを使用することを前提とした記載であって、ラプチャーディスクを使用せずに、各バルブの開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについて記載や示唆はない。 
(ウ) 以上のとおり、甲1記載の「容器弁」付き窒素ガス貯蔵容器の「容器弁」と甲2技術的事項の「ラプチャーディスク」は、動作及び機能が異なること、甲1及び2のいずれにおいても貯蔵容器の容器弁又はガスシリンダーのバルブの開閉時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することによって保護区域又は保護された部屋の加圧を防止することについての記載や示唆はないことに照らすと、甲1及び2に接した当業者は、甲1発明において、保護区域又は保護された部屋の加圧を防止するために甲2記載のラプチャーディスクを適用することに思い至ることがあり得るとしても、ラプチャーディスクを用いることなく、各「窒素ガス貯蔵容器」に付いた「容器弁」の開弁時期をずらして複数のガスシリンダーからそれぞれ順次ガスを放出することよって加圧を防止することが実現できると容易に想到することができたものと認めることはできない。

(コメント)
 非常に微妙なケースのように思うが裁判所の判示を整理してみる。
 甲1の容器弁と甲2のラプチャーディスクとは動作及び機能が異なる。甲2がラプチャーディスクを設けている目的は、部屋の過圧を防止することであり、その点は本件特許とは同じであるが、甲1に過圧防止ということは記載されていないし、仮に、過圧を防止するにしてもラプチャーディスクを使うことになるから、本件特許の構成には想到しない。
 異議決定のロジックは、甲2に過圧防止という目的が書いてあるから、甲1で過圧を防止するために容器弁を制御することは容易であるというものである。これはこれで一理あるような気もするが、裁判所は、異議決定のロジックは誤りであると判断した。根底には、甲1と甲2を足したとしても、甲1+ラプチャーディスクの構成までで、容器弁を制御するという本件特許の構成には到達しないということがあるのだろう。





2023年4月1日土曜日

[裁判例]対戦ゲームサーバ 新規事項の追加(知財高裁令和4年(行ケ)10092)

 拒絶査定不服審判の審決に対する審決取消訴訟である。発明は、対戦ゲームサーバのプログラムであり、ユーザどうしをマッチングさせるときに、不適切な強さの対戦相手との対戦が行われることを防ぐことを目的としている。
 争点は、出願人が行った補正が新規事項の追加にあたり、不適法であるかという点である。

 補正後の請求項1は下記である。下線は補正箇所を示す。
【請求項1】 
 複数の通信端末に対して一ユーザ対一ユーザの対戦ゲームを提供するコンピュータに、 
 前記通信端末を操作するユーザ毎に一意に割り当てられる識別情報と、ユーザ情報とを、それぞれのユーザ毎に対応づけて管理するステップと、 
 前記ユーザ情報に応じて、数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さの下限値及び上限値により定められた強さの各段階のうち、前記ユーザがいずれの強さの段階であるかを決定するステップと、
 前記ユーザから対戦要求を受けた場合、前記識別情報に対応付けられたユーザ情報に応じた強さの段階に基づき、当該強さの段階から所定範囲内の同じ強さまたは異なる強さの段階の他のユーザとの対戦を開始するステップと、を実行させ、 
 前記対戦を開始するステップは、
 前記下限値及び上限値により定められた強さの段階毎に設定された対戦相手の強さの段階の上限および下限、ならびに、当該対戦相手の強さの段階の上限および下限内に含まれる弱者の割合および/または強者の割合に基づいて、自動的に対戦相手候補であるユーザを抽出し、当該対戦相手候補であるユーザの中から前記ユーザによって決定された他のユーザとの対戦を開始することを特徴とするプログラム。
 
 このように出願人は、「強さ」の説明として、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」を加えた。
 明細書には、強さを上のように直接に説明した文章はなく、発明の課題として、「特にユーザが初心者であって、攻撃力及び防御力の合計値が低い場合、対戦相手に係る攻撃力及び防御力の合計値の方が高くなる可能性が高く、対戦ゲームで負けてしまうことが多くゲームに対するユーザの興味を著しく低下させてしまっていた。」(段落【0005】)との記載があるほか、実施の形態も「ユーザが保有するユニットの攻撃力及び防御力」を例として説明がなされていた。

 このことから、審決は、強さとは、「攻撃力及び防御力の合計値」であると解し、これを「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである」と補正することは、新たな技術的事項を導入するものであって、当初明細書等に記載した事項の範囲内でされたものではないと判断した。

[裁判所の判断]
 そして、「ゲーム」分野における技術常識に関して、「ユーザ」の「強さ」に、攻撃力及び防御力以外に、体力、俊敏さ、所持アイテム数等が含まれることが本願の出願時の技術常識であったことは、当事者間に争いがない(本件審決第2の2⑵イ(ウ)〔本件審決12頁〕参照)。 
 上記のような、対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項にすぎないと認められる。 
 そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反するものではないというべきである。 

(コメント)
 上記の補正は、次の明確性要件違反に対応したものである。
「請求項1、7、8及び請求項1を引用する請求項2から6に係る発明の「強さ」には、攻撃力及び防御力の合計値のみならず、対戦ゲームの技術常識を勘案すると、必殺技等も包含される。
 ここで、例えば、必殺技は、数値化できないところからすると、「強さの下限値及び上限値」といっても数値化できないものに対して「下限値及び上限値」とは、何を特定しようとしているのか不明である。
 さらに、上述するような数値化できない「強さの下限値及び上限値」により定められた「強さの各段階」とは何を特定しようとしているのか不明である。
 よって、請求項1~8に係る発明は明確でない。」

 判決によれば、強さには、必殺技のように数値化できないものも含まれる。数値化できないのに、「強さの各段階」とはどう特定するのか、という点は明確になったのだろうか。
 特許庁の明確性の主張に対し、判決は、次のように述べるが、強さに何が含まれるのかは想定し得るとしても、その段階については明示していないように思われる。(特許庁が「強さの各段階」について主張しなかったのかもしれない)

[裁判所の判断]
 しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザの強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのようなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認される。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていないとしても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。

2023年3月7日火曜日

[裁判例]証拠の記載を上位概念化して認定することは許されないとした例(令和4年(行ケ)10012等)

 特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟である。対象特許は、以前、個人発明家がアップルから損害賠償をとったことで話題になったクリックホイールの特許である。なお、特許の存続期間は切れており、すでに権利は消滅している。
 対象特許の請求項は次のとおりである。

【請求項1】
A 指先でなぞるように操作されるための所定の幅を有する連続したリング状に予め特定された軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置され、前記軌跡に沿って移動する接触点を一次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段と、 
B 接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し、 
C 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って、前記プッシュスイッチ手段の接点が、前記連続して配置されるタッチ位置検出センサーとは別個に配置されているとともに、前記接点のオンまたはオフの状態が、前記タッチ位置検出センサーが検知しうる接触圧力よりも大きな力で保持されており、かつ、 
D 前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における前記タッチ位置検出センサーに対する接触圧力よりも大きな接触圧力での押下により、前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われる 
E ことを特徴とする接触操作型入力装置。


 要するに、リング状のタッチ位置検知手段83があり、タッチ位置検知手段83の軌跡上で押下すると接点がオンになるプッシュスイッチ手段84(上図では4つ)があるというものである。
 
 主引例は3つあるが、ここでは甲1を取り上げる。
 甲1発明は、テープ駆動系に対する制御信号を発生すべく操作される制御手段に適用される、タッチパネルを利用した制御信号供給装置の発明である。従来は、検出領域が直線的に配列されたタッチパネルを備えていたが、これだと、タッチパネルの一端から他端への操作戻り時間がとられるという課題があったので、甲1発明は、円環状に配列された複数の接触操作検出区分を設けたタッチパネルを採用した。


 本件特許と甲1発明との相違点は、甲1発明がプッシュスイッチ手段を有していない点である。
 この相違点を埋めるべく、原告は、周知技術を示す多数の証拠を提出し、甲1発明と周知技術との組み合わせを主張した。

[裁判所の判断]
  以上によれば、甲4文献ないし甲9文献から、接触点を一次元又は二次元座標上の位置データとして検出するタッチ位置検知手段(タッチパネル)の下にプッシュスイッチ手段を配置した構造を、周知技術として認定することができる。 
 原告らは、前記第3の1⑴ア のとおり、甲4文献ないし甲9文献から認定される周知技術について、「接触点を一次元又は二次元座標上の位置データとして検出する」との認定は不要なものである旨主張するが、周知技術1が、接触点を一次元(甲8文献)又は二次元(甲4文献ないし甲7文献及び甲9文献)座標上の位置データとして検出するものであることは事実であり、この点をことさら認定からはずすべき理由はない(いずれにしても、この点は本件結論を左右しない。)。したがって、原告らの上記主張は採用できない。
・・・
  磁気テープの走行方向や走行速度を制御するための甲1発明のタッチパネルと、走行方向や走行速度という要素を含まない位置データを入力する装置に関する周知技術1とは、制御する対象が異なるし、たとえ両者がタッチパネルという共通の構成を有するとしても、磁気テープの制御信号供給装置である甲1発明において、位置データを入力する装置に関するものである周知技術1を適用することが容易であるとはいえない。 
  結局のところ、甲1発明に、周知技術1を適用できるとする原告らの主張は、実質的に異なる技術を上位概念化して適用しようとするものであり、相当でない。 

(コメント)
 原告の主張は、タッチ位置検知手段の下にプッシュスイッチ手段を配置した構造は周知だから、甲1発明に組み合わせることは容易であるというものである。これに対し、裁判所は、周知技術のタッチ位置検知手段は、位置データを検出するタッチ位置検知手段であると認定した上で、位置データを検出するタッチ位置検知手段を甲1発明に適用することは容易ではないとした。上位概念化した技術は「実質的に異なる技術」であると言っているところは興味深い。
 証拠の記載からどの粒度で技術思想を抽出するかは評価という側面がある。許容される上位概念化もあるはずであり、どのような上位概念化が「実質的に異なる技術」なのかは、判断が非常に難しい。裁判所は括弧書きで「いずれにしても、この点は本件結論を左右しない。」とも述べるので、その判示を以下に抜粋する。下記の判断も手伝って、上のような認定をしたとも考えられる。

[裁判所の判断]
 仮に、周知技術1を、タッチパネルによる選択をプッシュスイッチで確定して何らかの入力情報を生成する技術であると上位概念化して理解したとしても、甲1発明は、プッシュスイッチに割り当てるべき機能(選択を確定する機能)をそもそも有さないし、甲1文献には、タッチパネルにより磁気テープの走行方向や走行速度を連続制御することは記載されているが、タッチパネルにより選択された走行方向や走行速度を確定する操作や、当該操作に対応するボタン等の構成は記載も示唆もないから、甲1発明に、周知技術1を適用する動機付けがない。 

(2023/3/15追記)
原告の主張に対して、裁判所は次のように判示している。
[裁判所の判断]
しかし、原告らの主張は、前記において説示した、甲1発明において選択を確定する機能がない点等を看過しているものであるし、周知技術1において、位置データを入力する機能はタッチパネルの形状や操作態様等には依存しないとしても、そのことが同周知技術におけるタッチパネルとプッシュスイッチの機能的又は作用的関連を否定する根拠とはならないし、機能的又は作用的関連が否定できない以上、周知技術1を甲1発明に適用することが単なる寄せ集め又は設計変更とはいえない。したがって、原告らの上記主張は採用できない。

 周知技術においてははタッチパネルとプッシュスイッチに機能的又は作用的関連があるため、これらを切り離して引用発明を認定してはいけないということである。
 

 

2023年2月13日月曜日

[調査]検索式の作成

 無効資料調査の検索式の作成について。
 正解があるわけではないように思う。今後も試行錯誤は続くが、いま考えるやり方を備忘の意味を込めてメモしておきたい。

 以前にも書いたが、すべてを網羅することはできない。例えば、20年分の文献を調査しようとすると、ざっと600~700万件の公報がある。このうち99%は無関係と言えるとしても残りは6~7万件。とても見きれる量ではない。そもそも調査対象を20年分としたり、その99%を外している点で網羅していないともいえる。
 無効資料調査の場合には、1件でも無効資料があればよいのだから、ありそうなところを見ていくのが、限られた時間で資料を発見する確率を高めると考える。
 
 「Aにおいて、Bに基づいてCする」ことを特徴とする発明を探すとする。
この場合、「Bに基づいてCする」という部分が特徴であり、「Aにおいて」は前提事項である。次のようなイメージで検索式を立てる。



 縦軸は特徴を表す表現の切り口、横軸は前提事項の切り口で、所望の文献は交差する部分にある。特徴部分はピンポイントで狙う。前提事項は、特徴部分の切り口で求めた集合からノイズを除去するという位置づけと考え、広めに設定する。
 以上のことから、検索式のクエリを考えると、次のようにすることが多い。
(特徴部分)
 ・要約のキーワード検索
 ・クレームのキーワードでの近傍検索
 ・全文のキーワードでの近傍検索
 
(前提事項)
 ・要約、クレーム、全文のキーワード
 ・FI

 次に、特徴部分の検索の例について。
「Bに基づいてCする」という技術思想を明細書で記載するとすると、どういう表現になるか。「Bに基づいてCする」「Bに応じてCする」「Bを用いてCする」等の他、「Cを行うためにBを用いる」も考えられる。また、「B」「C」の部分にはもちろん、「B」「C」のみならずその同義語も考えられる。
 近傍検索を使って、
「B」<1w>「基づ+応じて+を用いて」<5w>「C」 ・・・(式1)
というような感じになるかと思う。
 ここで、<1w>は両側にある文字が1ワード以内であることを意図している。
 少し広げるなら、
「B」<10w>「C」+ 「C」<10w>「B」  ・・・(式2)
のようにすれば、間に入る言葉が「基づく」等以外にも対応できる。

 注意が必要なのは、色々なバリエーションが考えられるからと気にしすぎると、関係ないものがたくさん入ってきてしまい何を探しているのか分からなくなってくる。
 ただし、現実には、(式1)のタイプの式をたくさん作るのは結構難しく、(式1)のタイプだけだと件数がヒットしないということもある。他人が書いた明細書の表現をすべて想定できるとも思えないので、そもそもの件数が小さい場合には、ある程度、しらみつぶし的な検索式を入れていく場合もある。
 

2023年2月6日月曜日

[裁判例]着信者主導による通信方法(令和4年(行ケ)10013号)

 拒絶審決に対する審決取消訴訟である。裁判所は、結論としては、拒絶審決の結論を支持したが、その理由の中で審決の要旨認定が誤りであると判示した。
 出願に係る発明は、以下のとおりである。いつもなら概要を記載するのだが、この発明は、何を言わんとしているのかよくわからなかったため、単に引用した。

 【請求項1】 
 コンピュータによって実行される方法であって、 
 サービスの要求を受けるステップと、 
 前記要求を処理するために指示情報を使用するステップと、を含み、 
 前記指示情報が認証情報に基づいて設定された情報であり、 
 前記認証情報が物品から取得される情報であり、 
 前記物品が前記認証情報を利用者に提供する物品である、 方法。

 問題となったのは、「指示情報」(下線部)の解釈であり、審決は、次のように解釈した。
(審決の解釈)
ア 本願発明の「指示情報」は、本願明細書記載の「指示ファイル」の情報に対応するものであり、具体的な実施例としては、買い手の口座に対応する「指示ファイル」に設置(設定)した電子決済の「有効/無効フラグ」である(【0066】)。 

 審決は、上記の指示情報の解釈を前提として、本件発明と引用文献1との2つの相違点を認定し、それらの相違点について容易想到であるとした。

 これに対し、裁判所は次のように判断した。
(裁判所の解釈)
 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は、 「・・(省略。請求項1を引用。)・・」というものである。
 上記記載によれば、本願発明は、サービスの要求を受けるステップと、前記要求を処理するために「指示情報」を使用するステップと、を含むコンピュータによって実行される方法であり、本願発明の「指示情報」は、コンピュータがサービスの要求を処理するために使用する情報であって、利用者に提供する、物品から取得される認証情報に基づいて設定された情報であると解される。 
 そして、本願明細書には、本願発明の「指示情報」について定義した記載はもとより、「指示情報」の用語を明示的に用いた記載はなく、「指示情報」を特定の情報に限定する記載や特定の場所に保存された情報に限定する記載もないことに鑑みると、本願発明の「指示情報」は、上記のとおり、解釈するのが相当である。 

 上記したように、裁判所は、「指示情報」は、請求項に記載されているとおりに解釈するのが相当であると判示した。この解釈に基づき、以下のとおり、請求項1に記載された構成は引用文献1に実質的に記載されていると判断した。

(裁判所が行った対比)
 利用者が店舗において購入希望商品の発注を行う際、店舗端末22に付属したQRコード読取装置21は、携帯電話機1の表示部11に表示されたQR決裁証明鍵1201を読み取るとともに、携帯電話機1の正面あるいは側面に印刷された標識19,20から携帯電話製造番号と携帯電話番号を読み取り、その読取結果を店舗端末22に転送し、店舗端末22は、携帯電話機1から読み取った携帯電話製造番号、携帯電話番号及びQR決裁証明鍵1201を決裁承認要求として認証サーバ41に送信し、・・・携帯電話製造番号及び携帯電話番号の両方が正当なものであり、しかも店舗端末22から受信したQR決裁証明鍵1201の情報(全部または一部)が自分自身で発行した正規のものであると認められた場合には、認証サーバ41は詳細決裁承認を店舗端末22に返信し、店員が、利用者本人に購入意思を確認した上で、決済処理が行われていることを理解できる。 
・・・
 そうすると、かかる制御を行うための情報は、「コンピュータ」である認証サーバ41が、「サービスの要求」としてのQR決裁承認要求を認めるか否かを処理するために使用する情報であって、「物品」である携帯電話機1から取得される「認証情報」である携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報であるといえるから、本願発明の「指示情報」に相当するものと認められる。

(引用文献)
 引用文献1は、セキュアな認証と決済を提供する商取引方法の発明である。


 「指示情報」を請求項に記載のとおりに解釈した結果、携帯電話機から読み取った”携帯電話製造番号及び携帯電話番号に基づいて設定された情報”は、「指示情報」に該当するとされた。
 携帯電話製造番号等は、審決が「指示情報」の具体例として挙げた、「電子決済の有効/無効フラグ」とは全く異なる。本件の出願人が携帯電話製造番号等までも「指示情報」として意図していたかどうかはわからないが、進歩性なしと判断された。
 新規性、進歩性の判断においては、発明の要旨認定は特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであるとの考え方が表れた例といえる。

 
 

方法発明の間接侵害が否定された例(令和6年(ワ)第70583号)

  液晶キーボードのキーの背景画像を着せ替える方法に関する特許を有する原告らが、文字入力キーボードアプリ「Simeji」を製造販売するバイドゥ株式会社を訴えた事件である(東京地裁民事第46部・令和8年4月15日判決)。実際に本件各発明に係る方法を使用するのは、被告製品をインストー...