2021年6月16日水曜日

[裁判例]引例の構成を分離して対比することは許されないとした例(令和2年(行ケ)10102等)

 ユニクロのセルフレジの関係で、アスタリスクが持つ特許の有効性が争われた審決取消訴訟である。アスタリスクは審決で無効と判断された請求項1,2,4について、ユニクロは審決で有効と判断された請求項3について、審決の取消を求めていた。

(対象特許の請求項1)
 物品に付されたRFタグから情報を読み取る据置式の読取装置であって, 
 前記RFタグと交信するための電波を放射するアンテナと, 
 上向きに開口した筺体内に設けられ,前記アンテナを収容し,前記物品を囲み,該物品よりも広い開口が上向きに形成されたシールド部と, 
を備え, 
 前記筺体および前記シールド部が上向きに開口した状態で,前記RFタグから情報を読み取ることを特徴とする読取装置。 


 請求項1の構成はシンプルで、上向きに開口したシールド部を備えた構成により、商品の出し入れが簡単で、かつ、周囲にある他の装置への電波の影響を小さくした、というものである。

(甲1発明)
 下記のような、読取り/書込みモジュール200を備えた会計端末100である。
 

 審決は、右図の読取り/書込みモジュール200を請求項1と対比し、実質的な相違点がないか、あったとしても当業者が容易に想到し得ると判断した。
 
(裁判所の判断)
 ・・・当業者は,甲1発明においては,「読取り/書込みデバイス102」の「防壁」が外部への電波の漏えい又は干渉を防止するものであると理解すると認められる。 
 (ウ) 「吸収性発泡体214」の外側に設けられる「外壁212」の材質について,甲1では特定されていないが,上記(ア),(イ)で述べたところに,金属の「側壁」,その外側の「吸収性発泡体」の更にその外側(外壁212の位置)に金属が設けられると,金属である「側壁」と,「外壁」が電波反射板となり,電波を反射するため,その間に「吸収性発泡体」を設ける意味が失われることを考え併せると,当業者は,甲1発明において,「外壁212」を金属で作る必要はないと理解すると認められる。 
 (エ) そうすると,甲1発明の「読取り/書込みモジュール200」は,「防壁」が存在しない状態で単独に用いられること,すなわち,「読取り/書込みモジュール200」だけで電波の漏えい又は干渉を防止することは想定されていないものと認められるところ,外部への電波の漏えい又は干渉を防止する機能は,本件発明と対比されるべき「読取装置」には欠かせないものであるから,甲1発明の「読取り/書込みモジュール200」が単体で,本件発明と対比されるべき「読取装置」であると認めることはできない。 

 以上のように、裁判所は、甲1号証の図2の読取り/書込みモジュールを単体の構成として分離して、対象特許の読取装置と対比することは認めないとした。図1の会計端末と比較した場合には、開口は上向きではなく前向きであるから、この点で両者は相違する。このことから、請求項1に係る発明は、甲1発明に基づいて容易に想到し得たものではないと判断した。
 なお、読取り/書込みモジュールがシールド部を備えていれば、構成としては、請求項1に係る発明と同じになると思われる。しかし、この点については、上記引用の(ウ)の部分で、外壁212を金属で作る必要はない、と判断している。

 個人的な印象としては、本件特許と甲1発明は、レジに使われるという用途も同じだし、開口の中にRFタグのついた商品を入れて使うという構成も同じで、有力な無効資料と思った。装置本体とモジュールの違いに起因する相違点をうまくつかれたような格好だが、請求人にとってやや厳しいのでは?という気はした。


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