2020年9月22日火曜日

[裁判例]ホワイトカード事件(知財高裁 令和2年8月26日)

  本件は、ホワイトカードの使用限度額を引き上げるシステムに関する特許権を保有するMRSホールディングズがLINE Pay株式会社を訴えた事件の控訴審である。

 本件特許の概要は、次のとおりである。従来のクレジットカードはユーザの支払い能力等に基づいて使用限度額が設定されている。この使用限度額は、他者から送金を受ける等して一時的に所持金が増えた場合にも容易に変更できなかったという課題があった。この課題に鑑み、本件特許では、他者からの送金があった場合などに、「ホワイトカード」の使用限度を引き上げることができるようにした発明である。

 これに対し、LINE Payが、送金・入金及び振替入金の各機能に用いるLINE Payカードは電子マネーに係るプリペイドカードである。控訴人は、現金を電子マネーとしてプリペイドカードにチャージすることも使用限度額の引き上げに当たると主張した。

 論点となったのは、「ホワイトカード」はクレジットカードを意味しているのか(プリペイドカードは含まないか)、「使用限度額」の要件を充足するか、である。

 裁判所は、「ホワイトカード」「使用限度額」について以下のように認定した。

 本件明細書では、従来のクレジットカードにおいて使用限度額を引き上げるには「所定の手続き」を要する等して容易でないという課題を挙げ、その解決手段として本件発明の具体的構成を記載していることや、「ホワイトカード」の用語の意味(クレジットカードに関して使用された場合に「カード会社が個人向けに発行する最もベーシックなクレジットカード」を意味する)から、「ホワイトカード」はクレジットカードを意味し、プリペイドカードやデビットカードを含まないと判断した。

 「使用限度額」については、上記の課題に鑑み、ユーザが所定期間内に使用することのできる金額の上限額を意味し、その額は、ユーザとの契約時には、その支払能力(信用力)に応じて設定され、「ある程度固定される」ものであると認定した。


 表面的にだけ見れば、プリペイドカードのチャージ額も「使用限度額」と言えないこともなく、プリペイドカードも本件特許に該当するようでも、発明の課題等に基づいて理解すれば、「ホワイトカード」がプリペイドカードを意図したものでないことは明白である。

0 件のコメント:

コメントを投稿

請求項における「所望」の用語(令和6年(行ケ)10050号)

 請求項においては、権利範囲を不確定とさせる表現がある場合、明確性違反(特許法36条6項2号)となる場合がある。審査基準に挙げられた例は、「約」、「およそ」、「略」、「実質的に」、「本質的に」等である。  「所望」という文言も場合によっては不明確となり得る用語であると思われる。と...