2020年5月2日土曜日

実時間対話型コンテンツ事件(知財高裁 令和1年12月11日)

 無効審決に対する審決取消訴訟である。対象の特許は、モバイル装置を用いた音楽又は動画等のコンテンツの形成及び分配に関する。操作者が第1のコンテンツ(例えば、音楽)に合わせて、第2のコンテンツ(例えば、歌声)を入力し、両者を重ねたコンテンツを受信者に送る発明である。

 争点は、進歩性の判断であり、問題となった相違点は、本件特許では、「第2のコンテンツの表現」に加えて「少なくとも単独の受信者の識別子」を送るのに対し、甲1には、そのような特定がない点である。
 甲1には、演奏についての評価を投票することができるシステムが開示されている。このシステムでは、演奏の際にサーバから伴奏が与えられ、演奏者は伴奏に合わせて演奏を行う。甲1では、不特定の視聴者が演奏を聴くことができる。
 この相違点に関し、被告は、次のように主張した。すなわち、甲1には、ランクが高い演奏者が、参加する演奏グループを特定するために、どの演奏グループに参加するかの情報をサーバに対して送信した後に演奏を開始することが開示されており、この情報が演奏グループを特定するものであって、演奏グループには少なくとも1人の聴衆が含まれるから、同情報は対象特許の「少なくとも単独の受信者の識別子」に相当する。
 これに対し、裁判所は、「少なくとも単独の受信者の識別子」は、当該識別子により識別される特定の者を、受信者として指定できる機能を有するものであるところ、「ランク」はこのような機能を果たすものではないと判断した。この判断は妥当であり、もし無効にしたいのなら、ランクを受信者の識別子に置き換える副引例が必要であろう。
 
 ハングアウトを対象として、本件特許に基づく侵害訴訟が提起されている(平成28年(ワ)39789)。この訴訟では、特許権者は、「 「第2のコンテンツと、少なくとも単独の受信者の識別子とを前記入力デバイスを通じて操作者から受け取らせ」とは、第2のコンテンツと受信者の識別子とを一組のデータとして同時に受け取らせることを意味するものではない」と主張している。甲1の「ランク」も毎回指定するものではないという点では共通するので、そうした背景もあって、「ランク」が「少なくとも単独の受信者の識別子」に相当するという主張をしたものかもしれない。つまり、特許権者が、侵害論においてこういう主張をするなら、特許は無効になりますよという戦略である。
 なお、侵害訴訟は、この争点とは別の争点で非侵害と判断されている。




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