株式会社セガが、「LINE:ディズニーツムツム」を提供するLINEヤフー株式会社に対し、2件の特許権の侵害を理由に損害賠償(一部請求として1億円)を求めた事件の控訴審である(令和8年8月31日判決、原審は令和7年9月11日判決)。控訴は棄却された。ただし、本件特許2については、原審が否定した構成要件充足を控訴審は認めており、結論は同じでも理由は変わっている。
問題となった請求項1は以下の構成を有する。
1A 購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテム、および、ゲームの実行によりユーザーに付与される第2の仮想アイテムを区別なく利用可能なゲームを実行するゲームシステムであって、
1B 前記ユーザーに対応付けて、前記第1の仮想アイテムの数量と、前記第2の仮想アイテムの数量とをそれぞれ記憶する手段と、
1C 前記ユーザーが前記第1の仮想アイテムおよび前記第2の仮想アイテムの両方を保有している場合、第2の仮想アイテムに優先して第1の仮想アイテムを消費させる手段と、
1D を備えたことを特徴とするゲームシステム。
被告ゲームのルビーには、有料ルビーと無料ルビーがある。ルビーを購入すると購入金額に応じて有料ルビーが付与され、高額の購入ではボーナスとして無料ルビーも付与される(例えば70個購入で有料65個+無料5個)。ゲームをプレイすると無料ルビー(ゲーム実行ルビー)が付与される。有料ルビーは優先して消費される。ただし、システムが管理・表示するのは有料ルビーと無料ルビーの総量であり、無料ルビーのうちボーナス分とゲーム実行分の内訳を記憶しているとの立証はなかった。
争点は、購入時のボーナスとして付与される無料ルビーが第1・第2のいずれの仮想アイテムに当たるかである。原告は、本件発明1の作用効果(課金アイテムを先に消費させて収益向上を図る)からすれば、経済的側面から判断すべきであり、ボーナス分は課金対象外なので「第2の仮想アイテム」に当たると主張した。
[裁判所の判断]
前記の特許請求の範囲及び本件明細書1の記載に加え、「数量」は「個数、分量」の意味を有する用語であることを考慮すると、「第1の仮想アイテムの数量」の意義は、「購入手続を行うことでユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」と、「第2の仮想アイテムの数量」のそれは、「ゲームの実行によりユーザに付与される遊技価値アイテムの個数、分量」とそれぞれ解釈するのが相当である。
原告は、「第1の仮想アイテム」及び「第2の仮想アイテム」の意義は、「第1の仮想アイテム」の優先消費により収益向上を図りやすいといえるかという経済的側面から判断されるべきである旨の主張をし、他方、被告は、「数量」の意義は、その技術的意義にかんがみると「総量」と解釈すべきである旨の主張をするが、「第1の仮想アイテムの数量」及び「第2の仮想アイテムの数量」の意義は前記のとおりであり、いずれも採用することができない。
(中略)
被告ゲームシステムは、「第1の仮想アイテム」である購入ルビー(無料ルビー)及び「第2の仮想アイテム」であるゲーム実行ルビーを合算した数量を、無料ルビーの総量として表示する構成であり、「第2の仮想アイテムの数量」を記憶する手段を備えないことは、前記のとおりである。
控訴審で原告は均等侵害も予備的に主張したが、第1要件で否定された。
[裁判所の判断]
本件発明1における、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は、購入手続を行うことでユーザに付与される遊技価値アイテム(「第1の仮想アイテム」)と、ゲームの実行によりユーザに付与される遊技価値アイテム(「第2の仮想アイテム」)を区別なく利用可能なゲームを実行するゲームシステムにおいて、「第1の仮想アイテム」の数量と、「第2の仮想アイテム」の数量とをそれぞれ記憶する手段を備えることにより(構成要件1B)、ユーザが「第1の仮想アイテム」及び「第2の仮想アイテム」の両方を保有している場合に、「第2の仮想アイテム」に優先して「第1の仮想アイテム」を消費させる手段を備えたこと(構成要件1C)にあると解される。
これに対し、被告ゲームシステムは、(中略)「第1の仮想アイテム」の数量と、「第2の仮想アイテム」の数量とをそれぞれ記憶する手段を備える構成でも、したがって、「第2の仮想アイテム」に優先して「第1の仮想アイテム」を消費させる手段を備えた構成でもない。
2 本件特許2(特許第5622184号)について
本件特許2(訂正後の請求項2)は、プレイヤが金銭の支払いに基づき獲得したゲームアイテムデータが既存のものと同一種類であれば、そのデータを「累計獲得数に応じて変更する」ゲームプログラムである(構成要件2B)。ツムツムで同じツムを重ねて引くとスキルレベルが上がる仕組みが問題とされた。
原審は、被告ゲームではスキルチケットの使用回数もスキルレベルの変更に関与するため、累計獲得数以外の数値を含むとして2Bの充足を否定していた。これに対し控訴審は、「応じて」の語義から「累計獲得数の変化に見合うように変更すること」と解釈し、スキルチケットの構成が付加されていても充足は否定されないと判断した(被告ゲームの具体的構成は閲覧制限で伏せられている)。そのほか、「ゲームアイテムデータ」は有体物に係るデータに限られない、「金銭の支払いに基づき」は「金銭の支払に起因して」の意味であり、購入したルビーを交換したコインやメダルが介在しても充足する、とされ、全構成要件の充足が認められた。
しかし、乙6発明(野球つくONLINE2)および乙39発明(ガンダムタクティクスオンライン)に周知技術を適用して容易想到であるとして、無効の判断が維持された。乙39文献はクローズドβテストを紹介するウェブ記事であり、同一パイロットの重複によるパラメータ向上は「正式リリース版で採用予定」とアナウンスされていたにすぎなかった。原告は、βテストに実装された構成で認定すべきであると主張したが、退けられた。
この点、特許法29条1項3号に規定する「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」は、当業者が特許出願時の技術水準に基づいて容易に発明をすることができたか否かを判断する基礎となるべきものであるから、当該刊行物等において、これに接した当業者が、特許出願時の技術水準に基づいて、その技術的事項を実施し得る程度に技術的思想が開示されているのであれば、特許を受けようとする発明は、同号に規定する「頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明」に該当するというべきである。
これを本件についてみると、乙39文献は、「クローズドβテスト」に係るゲームを紹介するウェブサイトの記事であるところ、同記事には、(中略)「βテスト」では実装されていないものの、パイロットユニットについては、同一パイロットを複数持っている場合、基本パラメータを向上させることなどが記載されていて、これに接した当業者は、正式リリース版においては、上記の構成を備えるものと理解するものといえる。
本判決は、以下のように示唆に富んでいる。
・「有償か無償か」ではなく「入手の経路」で定義したクレーム
本件特許1について、控訴審は原審の判断を修正している(「数量」の意義を「総量」から「個数、分量」に改めた点が目立つ)が、非侵害の結論も、それを導く決め手も原審と変わっていない。決め手は、購入時のボーナスとして付与される無料ルビーを、構成要件1Aの文言どおり「購入手続きを行なうことでユーザーに付与される」第1の仮想アイテムとした点である。そうすると、被告システムが「無料ルビー」として表示しているのは第1の仮想アイテムの一部(ボーナス分)と第2の仮想アイテム(ゲーム実行ルビー)を合算した数量であって、その内訳を記憶していることの立証もないから、1Bの「それぞれ記憶する」も、1Cの「優先して消費」も満たさないことになる。
これに対し原告は、課金対象か否かで切り直し、有料ルビーが第1、購入ルビー(無料ルビー)とゲーム実行ルビーを合わせたものが第2であると主張した。発明の作用効果からすれば理解できなくもない。しかし、請求項は第1・第2の仮想アイテムを「付与の契機」(購入手続きかゲームの実行か)で定義しているのであって、「有償か無償か」で定義しているわけではない。文言と異なる基準で読み替えることが認められなかったのは当然であろう。本件の実施形態(課金メダルMc・無料メダルMf)からすれば、「課金対象のアイテム」と「課金対象外のアイテム」という書き方もあり得たと思う。クレームで用語を定義するときには、どの性質で区別するのか等、いくつかの切り口を意識する必要がある、という教訓である。
本件特許2の構成要件2B(「同一種類であると判断された前記ゲームアイテムデータを、…前記プレイヤによる累計獲得数に応じて変更する」)について、原審と控訴審の判断が分かれた。問題は、「累計獲得数に応じて」といえるために、累計獲得数以外の要素が変更に関与していてはならないか、である。
原審は、関与してはならないと解した。「累計獲得数」は同一種類データに係る累計獲得数以外の数値を含まないとしたうえで、被告ゲームではスキルチケットの使用回数も関与する以上、チケットを一度も使わないユーザーについても充足しないとした。これに対し控訴審は、「応じて(応ずる)」が「物事の状態・変化に見合うようにする」という意味であることから、累計獲得数の変化に見合うように変更していれば足りるとし、スキルチケットにより「スキルレベル」を増加させる構成をも備えるからといって充足性は否定されない、とした。「遊戯者に一定の満足感を提供する」という本件発明2の作用効果も減殺されない、という判断である。
被告ゲームの具体的な処理は伏せ字のため正確には分からない。ただ、原告の主張からすると、チケットが重複獲得の代わりになる仕組みのようである。
原審の解釈は、請求項にない「のみ」を読み込み、「累計獲得数のみに応じて」と書いてあるかのように読むものであり、文言を離れた限定解釈であったと思う。原審は、本件明細書2に累計獲得数以外の数値を含む旨の記載や示唆がないことを理由に挙げるが、それは限定を加える理由にはならない。構成要件をすべて備えていれば、付加的な構成があっても侵害を免れないのが原則である。その付加によって発明の作用効果が損なわれるかを確認して充足を認めた控訴審の判断の方が、妥当であろう。
もっとも、付加的構成が常に無視されるわけではない。請求項の文言が排他的な意味を含む場合や、付加によって発明の作用効果が失われる場合には、充足が否定され得る。本件で控訴審が作用効果の検討を加えているのは、その確認であると理解できる。
本件特許2は、控訴審で充足が認められたのに無効で負けるという結果になった。
原審が「念のため」無効判断を示していたことが、控訴審でも結論を支えた形である。乙39については、未実装の機能の「アナウンス」でも、当業者が実施し得る程度に開示されていれば公知発明の認定に用いることができるとされた。ゲームのように、βテストや事前告知で仕様が先に公開される分野では、自社・他社を問わず、こうした告知記事が先行技術になり得ることに注意が必要である。
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