2024年1月10日水曜日

[裁判例]動機付けがないとして組合せを否定した例(令和4年(行ケ)第10112号)

 発明の名称を「有料自動機の制御システム」とする特許にかかる無効審判の審決取消訴訟である。有料自動機というのは具体的にコインランドリーのことであり、発明はその制御システムである。
 発明の課題は、多数の有料自動機が複数箇所に分散して設置されている場合であっても各設置場所を巡回することなく有料自動機の動作状態を容易に確認することが可能な有料自動機の制御システムを提供することであり、以下の構成を有する。少し長いが、全体を見てほしい。

【請求項1】
A 複数のランドリー装置の各々に対応して配置されるICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置と前記複数のランドリー装置の稼働状況に関する情報を集める管理サーバとからなるランドリー装置の制御システムであって、 
B 複数のランドリー装置の各々は、現金を投入する現金投入部、前記現金投入部への現金の投入を検知して現金投入の検知信号を出力する現金投入検知部、および、前記現金投入の検知信号の入力に応じてランドリー装置の動作を制御するランドリー装置制御部を有し、 
C 前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置は、前記ICカードリーダー/ライタ部が読み取った情報に基づき前記検知信号と同じ信号を前記ランドリー装置制御部に送出し、接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を生成し、かつ出力し、 
D 前記ランドリー装置制御部は、対応して配置されているICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置より出力された前記現金投入の検知信号と同じ信号の入力に応じて前記ランドリー装置を制御し、 
E 前記管理サーバは、前記ICカードリーダー/ライタ部と通信部とを有する装置が出力した前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報を用いて、前記複数のランドリー装置の各々が運転中か否かを示す運転情報を作成し、前記運転情報を前記管理サーバに電気通信回線を介して接続された表示装置を有する端末に提供することを特徴とするランドリー装置の制御システム。 

 基本的には、ランドリー装置の稼働状況を管理サーバに集め、通信回線を介して端末に運転情報を提供するということを規定している。発明の課題とどういう関係があるのかやや不明である(と感じるのは筆者だけか?末尾のコメントに続く。)が、ランドリー装置はICカードリーダー/ライタ部を備えている。
 ICカードリーダー/ライタ部はポイントカードへのリードライトを行う装置であり、現金が使われたときはポイントを貯め、ポイントが使われたときには、現金の場合と同様にランドリー装置を制御する(構成要件D)。

[引用発明と相違点]
 引用発明は、本件発明と同じくコインランドリー等で用いられる商品販売役務提供システムに関し、商品又は役務の提供を受ける顧客の利用状況に応じて、これらの提供対価を調整できるようにすると共に、商品販売及び役務提供に関する販売促進を支援できるようにした発明である。
 具体的には、カードリーダライタにパソコンが接続されており、カード毎に記録された使用日時、利用金額、利用時間幅が集計される。また、現金利用者の使用日時、利用金額の集計も行い、提供対価を増減するように調整することも行う。なお、引用発明は、複数の店舗のパソコンをつなぐ中央指揮パソコンを備え、任意のコインランドリー支援システムの稼働実績情報をほぼ瞬時に取得できる。



 本件発明と引用発明との相違点はいくつかあるが、裁判所が進歩性について判断したのは下記の相違点である。

(相違点1-3)
 本件発明1のカードRW通信装置は、ランドリー装置の情報として「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」を「生成」かつ「出力」するものであるのに対し、引用発明1のカードRW通信装置は、ランドリー装置の情報として「接続されている前記ランドリー装置が運転中であるか否かを示す情報」を「生成」して「出力」するものでない点。 

[裁判所の判断] 
 (2) 相違点1-3の容易想到性について 
 前記2(1)イのとおり、引用発明1の課題は、顧客の利用状況に応じて提供対価を調整できるようにすると共に、商品販売及び役務提供に関する販売促進を支援できるようにしたシステムを提供することであり、販売促進を図るための利用状況の集計データを得ることが目的であるといえ、「運転中であるか否かを示す情報」をカードリードライターからパソコンに出力することは、甲3(注:甲3は引用発明1の文献)に記載も示唆もされていない。 
 また、「運転中であるか否かを示す情報」は「顧客の利用状況に応じて提供対価を調整する」ことや「販売促進」と直接関係しない情報であるから、引用発明1において「運転中であるか否かを示す情報」を「カードリードライター」で生成しかつ出力する構成に変更する動機付けがあるとはいえない。 
 そうすると、甲3において相違点1-3に係る構成とすることを示唆する記載もなく、このような構成に変更する動機付けがあるとはいえない以上、甲20~24の技術を考慮したとしても、当業者において、相違点1-3に係る構成とすることが容易に想到し得たとはいえない。 
 したがって、引用発明1において相違点1-3に係る構成とすることは容易に想到し得たことではないとした本件審決の判断に誤りはない。 

 原告は、「(イ)過去の情報を取得することとそれに加えて現在の情報を取得することは全く矛盾しないから、引用発明1に甲20~24の技術を組み合わせることについて、甲3の記載に阻害されることはない」等と主張したが、裁判所は、次のように取り合わなかった。

 前記(2)のとおり、「運転中であるか否かを示す情報」を「カードリードライター」で生成し出力することと、販売促進を図るための利用状況の集計データを得ることとは直接関係するものではないから、上記(ア)~(エ)の点は、引用発明1において相違点1-3に係る構成に変更する動機付けがないとの判断を左右するものではない。原告の上記主張は採用できない。

[コメント]
 甲20~24も示されているが、直感的にも、コインランドリーの稼働状況を収集して公開するのは周知である。コインランドリーに行くなら空きがあるときにしたい。
 副引例に係る技術事項がいくら周知であっても、主引用発明の目的、課題に整合しない場合には、主引用発明との組み合わせが認められないことがある。いわゆる阻害事由、阻害要因がある場合である。
 しかし、本件は阻害要因のケースとは異なる。主引用発明と直接関係しないという理由で副引例の動機付けを否定し、進歩性を認めている。
 最初に書いたが、本件発明自体、動作状態を容易に確認するという課題を解決するための稼働状況を収集する構成に対してICカードリーダ/ライタ部の構成は関連性がよくわからないし、寄せ集め感がある。
 本件の判示によれば、寄せ集めの発明であればあるほど、例えばAという構成とBという構成とは直接関係するものではないという理由で、AとBの寄せ集めに進歩性が認められることになってしまわないだろうか。



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