2021年7月6日火曜日

[裁判例] ゲームプログラム事件(知財高裁 令和3年6月29日)

 拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟である。審判段階において補正が行われた補正の適否が争点となった。
 発明は、カードを使った対戦ゲームに関する。戦闘で勝利した際の商品として、またはガチャでカードを入手することができるが、カードにはレアリティが設定されている。ユーザが所持できるカードの枚数には上限がある(アイテムボックスに上限がある)ので、レアリティの低いカードは不要となるが、発明は、所定の条件を満たすカードを自動的に特定のアイテム(戦闘には使えないが、他のアイテムの強化等に使用可能)に変換するというものである。
 このように、特定のアイテムに変換することにより、「不要なアイテムによりユーザのアイテムボックスが満杯になるのを防ぐことができる」という効果がある。



 補正後の請求項1は、以下のとおりである。争点となっている要件に下線を引いた。
【請求項1】 
 コンピュータに,アイテムのアイテム情報に関するフィルタリング条件を設定する条件設定機能と, 
 前記アイテムがユーザに付与された際に自動的に, 前記アイテムのアイテム情報,および,前記条件設定機能によって設定されたフィルタリング条件を比較する比較機能と,
 前記比較機能によって比較された結果,前記アイテム情報が前記フィルタリング条件を満たしているアイテムを,当該アイテムのアイテム情報に含まれる価値情報 毎に異なる設定情報に対応付けて数値化する変換機能と, 
 前記変換機能によって数値化された前記アイテムの数値に基づいて,前記アイテムを所定個数の価値の等しい一種類の特定のアイテムに変換するアイテム変換機能と, 
 前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能とを実現させるゲームプログラム。

(裁判所の判断)
 ・・・当初明細書に記載された「アイテムボックス」は,アイテムを収納するための構成であって,かつ,アイテムの収納上限が設けられているものと認められる。
 一方,当初明細書には「特定のアイテム」について,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテム(段落【0049】)であり,アイテム付与部により実行されるアイテム付与ステップによってユーザに付与された「アイテム」が,アイテム変換ステップにより変換され(段落【0026】,【0035】,【0039】,【0048】),特定アイテム付与ステップによりユーザに付与される(段落【0040】,【0050】)ものであって,上限なくユーザが所持可能とすることができるものである(段落【0031】,【0040】,【0050】,【0052】)と記載されている。 
  そして,収納上限が設けられているアイテムボックスに「特定のアイテム」を収納すると,「特定のアイテム」を上限なくユーザが所持することは不可能であるから,当初明細書に接した当業者は,「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解される。 
 そうすると,「『特定のアイテム』を『アイテムボックス』に収納して保持すること」を意味する「前記特定のアイテムを,前記ユーザに関連付けられたアイテムボックスに対応付けて記憶するアイテム記憶機能」との新たな発明特定事項は,当業者によって当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内のものであるとはいえない。

 このように、特定のアイテムの性質に照らして、収容上限のあるアイテムボックスに収納するというのは、明細書の記載の範囲内ではないと判断した。
 原告は、様々な主張をしているが、興味深いものとして、「「特定のアイテムをアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれない」というものがある。
 これに対し、裁判所は、次のように判示した。

(裁判所の判断)
 確かに,「特定のアイテム」をアイテムボックスに入れて所持したとしても,「ユーザ操作なしで不要なアイテムを持たずに済む」という本願発明1の技術的意義は損なわれるものではないが,前記(2)のとおり,当初明細書に接した当業者は,アイテム付与部によって付与されるアイテムとは異なる種類のアイテムである「特定のアイテム」は,「アイテムボックスに収納して保持する」ものではないと理解すると解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。

 このように発明の技術的意義を損なわないかどうかということと、明細書に記載された範囲内かどうかは別の問題であると判示した点は参考になる。

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